ある日、契約しているプロバイダや、投稿したサイトの運営者から、「発信者情報開示に係る意見照会書」という書面が届くことがあります。
これは、あなたの投稿によって権利を侵害されたと主張する人から、氏名や住所などの情報を開示するよう請求があり、これに応じてよいかどうかについてあなたの意見を聴くための手続です。情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)6条1項が、プロバイダにこの意見聴取を義務づけています。[1]
回答することは義務ではありません。ただ、回答するかしないかで、その後に受け取れる情報が変わります。書面が届いてから考える時間は長くありませんので、何を判断すべきかを整理しておきます。
この記事のポイント
- 回答期限は原則2週間です: 業界団体のガイドラインが示す書式では「本照会書受領日から二週間以内」とされ、期間内に回答がないと、その点について特段の主張は行わないものとして扱われます。
- 「開示に応じるべきでない」と述べておくと、開示命令が出たときに通知を受けられます: 情プラ法6条2項の通知義務は、その意見を述べた発信者に対するものだからです。
- 回答の有無が結論を決めるわけではありません: 同意しないと答えても要件を満たせば開示されますし、回答しなかったから当然に開示される、というものでもありません。
意見照会は何のための手続か
発信者情報の開示を請求できるのは、①その投稿によって請求する人の権利が侵害されたことが明らかであり、かつ②損害賠償請求権の行使のために必要であるなど、開示を受けるべき正当な理由があるときです(情プラ法5条1項1号・2号)。[2]
もっとも、請求を受けたプロバイダは、通信の記録は持っていても、その投稿がどういう経緯で書かれたものかは知りません。そこで法は、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示の請求に応じるかどうかについて発信者の意見を聴かなければならない、と定めました(6条1項)。ガイドラインは、この手続を、プライバシーや表現の自由、通信の秘密といった発信者の権利利益が不当に侵害されることのないようにするためのものと説明しています。[3]
つまり意見照会書は、あなたを責めるために送られてくるものではありません。開示するかどうかを判断する前に、言い分があるなら聴いておく、という趣旨の手続です。
回答期限は2週間
回答期限は法律が定めているわけではなく、ガイドラインの書式に「本照会書受領日から二週間以内」と記載されています。そして、二週間を経過しても回答がない場合には、発信者はこの点について特段の主張は行わないものとして扱う、とされています。[4]
2週間は、届いた書面の意味を調べ、投稿の経緯を思い出し、回答するかどうかを決めるには、決して長い期間ではありません。間に合わないと思ったときは、放置せず、照会書に記載された連絡先に事情を伝えることを考えてください。
回答するかしないかで変わること
ここが実務上もっとも重要な点です。情プラ法6条2項は、プロバイダが発信者情報開示命令を受けたときは、意見の聴取において「開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた」発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならないと定めています(発信者に通知することが困難であるときを除きます)。[5]
通知の対象は、その意見を述べた発信者に限られます。回答をしなかった場合や、応じるべきでないとまでは述べなかった場合は、この通知は届きません。裁判所の手続が進み、開示命令が出ていても、そのことを知らないまま時間が過ぎることになります。
もっとも、通知を受けたからといって、あなたが開示命令の手続の当事者になるわけではありません。開示命令事件は、請求する人とプロバイダとの間の手続だからです。それでも、開示が現実味を帯びていることを早く知ることができれば、その後の交渉や対応を準備する時間が生まれます。
逆に、開示に同意しない旨を回答しても、それだけで開示が止まるわけではありません。ガイドラインの書式にも、法律の要件を満たしている場合には発信者情報を開示することがある旨が明記されています。[6]
「7日以内」の照会とは別の手続です
投稿の削除をめぐって届く照会と混同されることがありますので、区別しておきます。
削除(送信防止措置)については、権利を侵害されたとする人から削除の申出があった場合に、プロバイダが発信者に対して削除に同意するかどうかを照会し、照会を受けた日から7日を経過しても同意しない旨の申出がなかったときは、削除によって発信者に生じた損害を賠償する責任を負わない、という規定があります(情プラ法3条2項2号)。[7]
7日以内の照会は投稿を消してよいかを尋ねるもの、2週間の意見照会はあなたが誰かを教えてよいかを尋ねるものです。求められている判断が違いますので、届いた書面がどちらなのかを最初に確かめてください。
回答するときに気をつけること
意見照会書には、請求者の氏名、問題とされている投稿の内容、侵害されたとされる権利の種類とその理由、請求されている発信者情報の種類などが記載されています。[8]まず、どの投稿が問題とされているのかを正確に把握してください。
投稿した覚えがない場合もあります。回線を家族や職場と共有していた、アカウントを第三者に使われた、といった事情があるなら、その点は回答に書いておく意味があります。
他方、事実と異なることを書けば、後の交渉や訴訟で矛盾を指摘されることになります。分からないことを分からないまま書く必要はありません。投稿の内容や経緯によっては、回答の前に弁護士に相談したほうがよい場合もあります。
まとめ
意見照会書は、自分に対する開示請求がされたことを知る最初の機会であり、多くの場合、唯一の機会です。回答は義務ではありませんが、「開示に応じるべきでない」と述べておけば、開示命令が出た段階で通知を受けられます。何も答えないという選択は、その後の展開を知る手がかりを手放すことでもあります。
期限は2週間です。届いた書面を脇に置いてしまう前に、どの投稿について、誰が、何を理由に請求しているのかだけでも確かめておくことをお勧めします。
文末注
- 情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律・平成13年法律第137号)6条1項。開示の請求を受けた開示関係役務提供者が、発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、発信者の意見を聴かなければならない旨を定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 前掲・情報流通プラットフォーム対処法5条1項1号・2号。発信者情報の開示を請求できる場合として、権利が侵害されたことが明らかであること、及び開示を受けるべき正当な理由があることを定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 情報流通プラットフォーム対処法ガイドライン等検討協議会「情報流通プラットフォーム対処法 発信者情報開示関係ガイドライン」第10版(令和7年5月)。意見照会が、プライバシーや表現の自由、通信の秘密といった発信者の権利利益が不当に侵害されることのないようにするための手続であるとの説明について参照。 資料を見る ↩
- 前掲・発信者情報開示関係ガイドライン第10版。意見照会書の書式が回答期限を「本照会書受領日から二週間以内」とし、二週間を経過しても回答がない場合は発信者が特段の主張を行わないものとして扱う旨を定めていることについて参照。 資料を見る ↩
- 前掲・情報流通プラットフォーム対処法6条2項。発信者情報開示命令を受けたときは、意見の聴取において開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない旨を定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 前掲・発信者情報開示関係ガイドライン第10版。意見照会書の書式に、同意しない場合であっても法律の要件を満たしているときは発信者情報を開示することがある旨が記載されていることについて参照。 資料を見る ↩
- 前掲・情報流通プラットフォーム対処法3条2項2号。送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを発信者に照会し、照会を受けた日から七日を経過しても同意しない旨の申出がなかったときの損害賠償責任の制限を定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 前掲・発信者情報開示関係ガイドライン第10版。意見照会書に、請求者の氏名、掲載された情報の内容、侵害されたとする権利及びその理由、開示を請求されている発信者情報の種類等が記載されることについて参照。 資料を見る ↩