【最高裁判例】SNSのログイン記録はどこまで開示される?投稿者特定のルールを示した判決
令和8(2026)年7月12日
令和6(2024)年12月23日、最高裁判所第二小法廷は、SNSの「ログイン記録」をどの範囲まで投稿者の特定に用いることができるかについて、初めての判断を示しました(令和5年(受)第1583号)。
本件は、Instagram(インスタグラム)に自分を写した写真を無断で投稿されたAさんが、投稿者を特定するため、投稿者がアカウントにログインした際の通信について、インターネット接続サービスを提供した通信事業者(経由プロバイダ)のB社に対し、契約者の氏名・住所等の開示を求めた事案です。
XやInstagramなどのSNSの多くは投稿時の通信記録を残しておらず、ログイン記録が投稿者を特定する事実上唯一の手がかりとなります。本判決は、匿名の誹謗中傷やプライバシー侵害への対応実務に影響する重要な判断です。
この記事のポイント
- 最も近いログイン通信は開示対象: 権利侵害投稿と最も時間的に近接するログイン通信は、開示の対象となる「侵害関連通信」に当たるとの判断基準が示されました。
- 本件で開示は8回中1回分のみ: 8回のログイン通信のうち、投稿の21日後にされた1回についてのみ開示が認められ、残る7回分の請求は退けられました。
- ログイン記録が無制限に開示されるわけではない: 開示は投稿者の特定に必要な限度に絞られます。複数回分の開示を求めるには、その必要性を基礎付ける事情が必要です。
事件の背景
Instagramでは、利用者はアカウントにログインした状態でなければ投稿できません。他方、運営会社は、ログイン時のIPアドレス(インターネット上の住所にあたる番号)と通信日時は記録していますが、投稿時の通信記録は残していませんでした。
氏名不詳の投稿者は、令和3(2021)年4月29日、Aさんを被写体とする写真を無断で掲載する記事4件をInstagramに投稿しました(このほかに投稿日時が不明の記事が1件あります)。これらの投稿は、社会生活上受忍すべき限度を超えてAさんの人格的利益を侵害するものでした。
投稿者は、令和3(2021)年5月20日から6月13日までの間、B社の回線を利用してこのアカウントに8回ログインしていました。Aさんは、投稿者への損害賠償請求の準備のため、B社に対し、8回分のログイン通信に係る契約者情報の開示を求めて裁判を起こしました。
裁判での争点
令和3(2021)年改正のプロバイダ責任制限法(現在の「情報流通プラットフォーム対処法」。改正法は本件の訴訟の途中で施行)は、投稿時の記録がない場合に備え、ログイン通信のうち「侵害関連通信」に当たるものについて発信者情報の開示を認めています。侵害関連通信とは、権利侵害投稿の送信と「相当の関連性」を有する通信をいいます(同法施行規則5条)。
本件では、①改正法の施行前にされた投稿・ログインにも改正後の規定が適用されるか、②適用されるとして、8回のログイン通信のどこまでが「相当の関連性」を有するかが争われました。第一審・控訴審は、改正前の規定を適用したうえで、8回分すべての開示を認めていました。
最高裁判所の判断
1. 改正後の法律が適用される
最高裁はまず、投稿やログインが改正法の施行前にされたものであっても、改正後の規定(5条2項)が適用されると判断しました。改正は開示請求権の要件を整理したものであり、適用を制限する経過措置も置かれていないためです。
2. 開示は「発信者の特定に必要な限度」に絞られる
そのうえで最高裁は、ログイン通信それ自体には権利侵害性がなく、その開示は通信をした者のプライバシー・表現の自由・通信の秘密の制約を伴うことから、開示の範囲は発信者の特定に必要な限度に絞られるべきとしました。
具体的には、時間的な近さ以外に投稿との関連性の程度を示す事情が明らかでない場合には、少なくとも投稿の送信と最も時間的に近接するログイン通信が「相当の関連性」を有し、それ以外のログイン通信は、あえて開示を求める必要性を基礎付ける事情があるときにこれに当たり得るとの基準を示しました。
本件では、8回のうち投稿の21日後にされた1回が、投稿と最も時間的に近接するものでした。投稿からこの通信までの間には、B社回線を利用した別の2回のログインも存在しましたが、B社は自社の通信記録からこの2回を特定できませんでした。最高裁は、こうした事情の下ではこの1回の通信は投稿と「相当の関連性」を有するとして開示を認める一方、残る7回分については開示の必要性を基礎付ける事情がないとして、請求を退けました。
この判決が実務・生活に与える影響
本判決により、ログイン型のSNS上の匿名投稿について、開示されるログイン通信の範囲に関するルールが明確になりました。被害を受けた方は、原則として、投稿に最も時間的に近いログイン通信の情報から投稿者の特定を進めることになります。
ただし、あらゆるログイン記録が開示されるわけではない点には注意が必要です。本件でも、8回中7回分の開示は認められませんでした。また、開示の前提として、投稿により権利が侵害されたことが明らかであるといえるかなど、法律上の要件の検討も別途必要になります。複数回分の開示を求める場合には、その必要性を基礎付ける具体的な事情の主張・立証が求められます。
まとめ
本判決は、「侵害関連通信」の範囲について最高裁が初めて判断を示したものであり、被害者の救済と、通信をした者のプライバシー等の保護との均衡を図った判断といえます。この開示のルールは、法律の名称が「情報流通プラットフォーム対処法」に変わった現在も維持されています。
通信記録(ログ)の保存期間には限りがあります。投稿者の特定を検討する場合には、早い段階で投稿の証拠を保全し、速やかに手続を進めることが重要です。
出典・参照資料
- ・最高裁判所第二小法廷 令和6(2024)年12月23日判決(令和5年(受)第1583号・発信者情報開示等請求事件、民集78巻6号1445頁、判例タイムズ1535号70頁)
- ・控訴審:大阪高等裁判所 令和5(2023)年5月11日判決(令和4年(ネ)第2431号)
- ・第一審:奈良地方裁判所葛城支部 令和4(2022)年10月6日判決(令和3年(ワ)第300号)
- ・情報流通プラットフォーム対処法(旧:プロバイダ責任制限法)第5条、同法施行規則第5条
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
関連する豆知識
この記事は参考になりましたか?
この記事を書いた弁護士
この記事を書いた弁護士
弁護士(東京弁護士会・2009年登録)/内幸町国際総合法律事務所 パートナー
インターネット上の投稿に関する発信者情報開示請求、削除請求、損害賠償請求及び意見照会への対応を主に取り扱っています。 従業員・元従業員による投稿や転職クチコミなど、インターネット問題と労働法務が交差する案件にも対応しています。
主な著作(いずれも共著)
- 『事例大系 インターネット関係事件 紛争解決の考え方と実務対応』ぎょうせい・2025年
- 『最新事例でみる 発信者情報開示の可否判断』新日本法規出版・2022年
- 『最新 プロバイダ責任制限法判例集』LABO・2016年
投稿への対応をご検討中の方へ
サイト運営者や通信事業者が保有する記録には保存期間があります。投稿者の特定をご希望の場合は、 できるだけ早い段階でのご相談をご検討ください。
弁護士費用はこちら / 03-5501-7216 (月〜金 9:30〜17:00)