SNS誹謗中傷の投稿者特定が容易に?通信ログ保存に関する総務省報告書を弁護士が解説
2025年9月18日
「SNSでひどい誹謗中傷を受けたのに、投稿者を特定しようとしたら『ログが消えていて追跡できません』と言われた…」
これまで、ネット上のトラブルで泣き寝入りせざるを得なかった大きな原因の一つに、この「ログの保存期間」の問題がありました。今回、総務省が公表した「ICT サービスの利用を巡る諸問題に対する利用環境整備に関する報告書」は、この状況を改善するための重要な一歩となる可能性があります。
なぜ今、ログの保存期間が問題なのか?
まず、報告書が指摘している現状の課題を見てみましょう。
背景:深刻化するネット上の被害
SNSやネット掲示板での誹謗中傷、さらには犯罪の実行者を募集する「闇バイト」投稿など、違法・有害な情報が後を絶ちません。
被害者救済の壁「時間切れ」
こうした被害に遭った方が、弁護士に相談して投稿者を特定する「発信者情報開示請求」という手続きを進めても、SNS事業者やプロバイダ(インターネット接続業者)が通信ログをすでに消去してしまっているケースが非常に多いのが実情です。これは警察の捜査においても、同様の障害として指摘されています。
簡単に言うと、投稿者を突き止めるための証拠(ログ)が、手続きをしている間に消えてしまう「時間切れ」が多発しているのです。
報告書の結論は?何が変わる可能性があるのか?
この「時間切れ」問題を解決するため、総務省のワーキンググループは事業者向けのルールである「ガイドライン」の改正案を提案しました。
報告書のポイント
改正案の核心は、SNS事業者やプロバイダに対し、誹謗中傷などの対策に必要な通信ログを「少なくとも3~6か月程度保存することが社会的な期待に応える望ましい対応」と明確に示した点です。
保存が期待されるログの例
具体的には、以下のようなログの保存が期待されています。
- アカウント情報やログイン情報:誰が、いつサービスを利用したかの記録
- 投稿情報:いつ、どのIPアドレスから投稿されたかの記録
- 接続認証ログ:利用者にどのIPアドレスを割り当てたかの記録
「義務」ではなく「お願い」ベースの理由
ただし、これは法律による強制的な「義務」ではなく、あくまで「望ましい対応」、つまり事業者への協力をお願いする形です。なぜなら、通信ログは憲法でも保障されている「通信の秘密」に関わる非常にデリケートな情報であり、むやみに長期間の保存を強制することは、プライバシー保護の観点から慎重になる必要があるからです。今回の改正案は、被害者救済とプライバシー保護のバランスを取った結果と言えるでしょう。
私たちにとってのメリットは?
このガイドラインが改正され、事業者の協力が得られれば、私たちにとって大きなメリットがあります。
発信者情報開示請求の成功率向上が期待される
これまでは、ログの保存期間が事業者によってバラバラで、3ヶ月程度で消してしまうところも少なくありませんでした。弁護士が手続きの準備をしている間にログが消え、投稿者特定を断念せざるを得ないケースが減る可能性があります。これにより、誹謗中傷に対する泣き寝入りが減り、被害者の権利が守られやすくなるでしょう。
今後の課題は?
今回の報告書は大きな前進ですが、課題も残されています。
事業者の協力が鍵
あくまで「望ましい対応」を促すものなので、実際に事業者がどれだけログを保存してくれるかにかかっています。
次のステップも視野に
もし、このガイドライン改正だけでは状況が改善しない場合、報告書は「何らかの法的担保」、つまり法律で保存を義務付けることも含めて検討する必要があると、次のステップにも言及しています。
まとめ
今回の報告書は、ネット上の権利侵害に苦しむ人々にとって、投稿者を特定し正義を実現するための道を少しでも広げようとするものです。私たち国民の「社会的な期待」に応え、多くの事業者がログ保存に取り組んでくれることが強く望まれます。
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
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