Googleマップのクチコミは削除できる?──大阪高裁決定にみる「社会的評価の低下」の判断
令和8(2026)年7月26日
Googleマップに、事実と異なるクチコミを書かれた。削除させたい、投稿者を特定したい。事業者の方から、このようなご相談を受けることがあります。
もっとも、「内容が不当だ」「事実と違う」と感じることと、法的に削除が認められることは同じではありません。名誉権侵害が問題となる場面では、まず、一般の読者が投稿をどのように受け取り、その内容が対象者の社会的評価を低下させるかを検討します。
クチコミサイトの性質と読者の読み方を具体的に示した大阪高等裁判所令和元年11月8日決定を取り上げます。
この記事のポイント
- 中心となる問題: 投稿が一般読者の目から見て対象者の社会的評価を低下させるかです。
- 事実の摘示があっても: 具体的な経過や文脈によっては、社会的評価の低下が否定されます。
- 受忍限度の射程: 医師の受忍限度に関する判示は医療行為への評価に関するもので、他業種への単純な一般化はできません。
まず問われるのは「社会的評価を低下させるか」
本件は、医院を運営する医師が、Googleマップ上の自院に関するクチコミによって名誉権及び名誉感情を侵害されたとして、記事の仮の削除を求めた事案です。神戸地方裁判所姫路支部は申立てを却下し、大阪高裁も抗告を棄却しました。
大阪高裁が最初に示したのは、記事が他人の社会的評価を低下させるかどうかは、「一般の読者の普通の注意と読み方」を基準として判断するという枠組みです。この決定の中心は、投稿を単に「事実」か「感想」かに分類することではありません。投稿が掲載された媒体の性質も踏まえ、読者がどの程度その内容を信用し、対象者を否定的に評価するかを検討した点に特徴があります。
「事実の摘示」と「意見・論評」の区別
もっとも、投稿が事実を摘示するものか、意見・論評を述べるものかという区別も重要です。最高裁平成9年9月9日判決は、両者では不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、区別が必要であるとしています。
公共性及び公益目的が認められる場合、事実摘示型では、摘示された事実が真実であることなどが問題となります。意見・論評型では、前提となる事実の重要な部分が真実であることなどに加え、人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱していないことが問題となります。
どちらに当たるかは、「~と思う」「~と感じた」という言葉づかいだけでは決まりません。一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、前後の文脈や読者の知識・経験などを考慮し、証拠によって存否を決められる特定の事項を主張していると理解されるかによって判断されます。
クチコミサイトは、どのように読まれるか
大阪高裁は、クチコミサイトでは、投稿内容の真偽を事前に確認する仕組みも、読者が真偽を検証する手段もなく、個々の投稿の客観性は保証されていないと指摘しました。他方、多数の投稿が蓄積されれば、サイト全体としての客観性や信頼性が増すこともあるとしています。
読者は通常、一件の投稿だけを直ちに信用するのではなく、多数の投稿を比較して評価の傾向を知ろうとします。詳細かつ具体的な体験が記載されている場合や、同様の投稿が多数ある場合には信用しやすい一方、具体的な事実がなく、感想や評価だけの場合には直ちに信用しない、というのが一般的な読み方だと整理したのです。
「事実の摘示」があっても、届かないことがある
本決定で注目すべきなのは、問題となった複数の記述について事実を摘示する部分があると認めながら、社会的評価の低下を否定したことです。
たとえば、「薬を処方するといいながら処方しなかった」という趣旨の記述について、決定は事実の摘示に当たると認めました。しかし、どのような診療の過程で処方の話がされ、なぜ処方されなかったのかが具体的に述べられていませんでした。さらに、症状の推移や検査結果によって治療方針を変更することも考えられ、それ自体が直ちに非難される行為ではないとして、読者が医師の診療を直ちに否定的に評価するとは考え難いと判断しました。
診察が雑で検査をしないという趣旨の記述や、診断が難しいため大きな病院を紹介すると応答したという趣旨の記述についても、一定の事実摘示性を認めつつ、診療経過が具体的に示されていないことや、その対応自体が直ちに非難されるものではないことなどから、社会的評価の低下を否定しています。
つまり、事実摘示性と、社会的評価を低下させるかどうかは別の問題です。実際とは異なることが書かれていたとしても、それだけで当然に名誉毀損になるわけではありません。
評価・意見の部分と名誉感情
決定は、前記の記述を踏まえた医師への否定的な評価についても、名誉毀損を否定しました。決定文には、前提となる記述が「具体的な事実の摘示を伴うものでない」ため、事実を基礎とする論評・意見ともいえないとの表現があります。これは、前提部分に事実性が全くないという意味ではなく、否定的な評価を基礎付けるほど具体的な診療経過が示されていないという趣旨に読むのが自然です。
名誉感情については、医師は「自らの行う医療行為」について患者等から評価を受けることを一定の範囲で受忍すべき立場にあるとしたうえで、本件投稿は批判的・否定的ではあるものの、人格攻撃に及び、名誉感情を著しく害する程度には至っていないと判断しました。
この判示は、医師の私生活や人格一般への攻撃まで受忍すべきとしたものではありません。また、医療という専門職の性質を踏まえた判断であり、他の業種にそのまま当てはめることはできません。
事業者として確認すべきこと
実務では、投稿を一文ずつ分解し、①具体的な事実の記載、②評価・感想、③評価の前提として黙示的に主張されている事実を整理します。そのうえで、一般の読者が投稿をどのように理解し、その内容が社会的評価を低下させるかを検討します。
投稿が具体的であることは、読者に信用されやすく、社会的評価の低下が認められる方向に働き得ます。しかし、具体的であれば直ちに削除できるわけではなく、投稿者側から真実性等が主張・立証される可能性もあります。予約記録、勤務記録、防犯カメラ映像、診療・施術記録、顧客対応履歴など、投稿内容と照合できる資料があるかが重要です。
反対に、抽象的な悪口であっても、表現が激しく、人格攻撃として社会通念上許容される限度を超える場合には、名誉感情侵害(侮辱)などが問題となり得ます。また、裁判上の削除請求とは別に、プラットフォームの利用規約や投稿ポリシーに基づく違反報告を検討すべき場合もあります。
この決定の射程とまとめ
本決定からは、社会的評価の低下は一般読者の普通の注意と読み方で判断されること、その際に「クチコミ」サイトという媒体の性質や投稿の具体性が考慮されること、そして事実摘示性が認められても当然に社会的評価の低下が認められない場合があること、といった点を読み取ることができるでしょう。
なお、大阪高裁は社会的評価の低下を否定した(つまり、請求原因レベルで主張が認められなかった)ため、摘示事実の真実性、公共性、公益目的などについては判断していません。本決定から、「抽象的なクチコミは常に適法である」「具体性がなければ削除できない」という一般的なルールを導くことはできません。
「不当なクチコミ」と「法的に削除できるクチコミ」は同じではありません。投稿の意味内容、具体性、全体の文脈、業種や行為の性質、資料の有無、人格攻撃の程度などを総合的に検討する必要があります。問題となる投稿は削除・編集される前に、URL、投稿日時、投稿者名、星の数、全文及び周辺の投稿を保存しておくことが重要です。
出典・参照資料
- ・大阪高等裁判所令和元年11月8日決定(令和元年(ラ)第860号・仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件。原審:神戸地方裁判所姫路支部令和元年6月10日決定。ウエストロー・ジャパン文献番号2019WLJPCA11086004)
- ・最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決(平成6年(オ)第978号・損害賠償請求事件、民集51巻8号3804頁。ウエストロー・ジャパン文献番号1997WLJPCA09090003)
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この記事を書いた弁護士
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弁護士(東京弁護士会・2009年登録)/内幸町国際総合法律事務所 パートナー
インターネット上の投稿に関する発信者情報開示請求、削除請求、損害賠償請求及び意見照会への対応を主に取り扱っています。 従業員・元従業員による投稿や転職クチコミなど、インターネット問題と労働法務が交差する案件にも対応しています。
主な著作(いずれも共著)
- 『事例大系 インターネット関係事件 紛争解決の考え方と実務対応』ぎょうせい・2025年
- 『最新事例でみる 発信者情報開示の可否判断』新日本法規出版・2022年
- 『最新 プロバイダ責任制限法判例集』LABO・2016年
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