弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

ネットの悪口はどこから不法行為?裁判所が「侮辱」と判断した表現からみる「境界線」


令和7(2025)年7月26日

この記事では、どのようなネット上の書込みが不法行為としての「侮辱」と判断されるのか、実際の裁判例をもとに具体的に解説します。個人のプライドや自尊心を傷つける表現は「名誉感情侵害」(侮辱)と呼ばれ、社会の常識から見て我慢の限度を超える(社会通念上許容できる限度を超える)と判断された場合には、法的な責任が問われる可能性があります。

(ご注意)
・この記事では、読者の皆様の理解を深めるため、裁判で実際に「侮辱」と判断された過激な表現を具体例として紹介します。不快に感じられる可能性のある内容が含まれますので、あらかじめご了承ください。

・裁判例で「侮辱」と認められた表現は、当事者の関係性や関連する投稿、それまでの経緯など様々な事情をふまえて判断されたものであり、同じ表現であるからといって常に侮辱と判断される訳ではない点にご留意ください。

侮辱と判断されやすい表現の3つのパターン

裁判所が「侮辱」にあたると判断した表現は、大きく以下の3つのパターンに分類できます。

  1. 見た目や身体的な特徴に対する執拗な悪口
  2. 人格や存在そのものを否定するような言葉
  3. 個人の社会的な信用を失わせるようなレッテル貼り

以下、具体的な事例を見ていきましょう。

パターン1:対象者の見た目や身体的な特徴に対する執拗な悪口

個人の容姿や身体的な特徴について、からかったり、けなしたりする目的の書き込みが、社会の常識で許される範囲を超えた場合に「侮辱」と判断されることがあります。

<裁判で侮辱と認められた表現の例>

  • 「口元が変」「本当に口元が変」(東京地判R6.2.22ウエストロージャパン2024WLJPCA02228005)
    判断のポイント: 他人の目を気にしやすい顔の一部を執拗にからかう行為は、我慢の限度を超えると判断されました。たとえ被害者が「美」に関するビジネスをしていたとしても、容姿への悪口を受け入れなければならない理由にはならないとされています。
  • 「バイ菌顔」(東京地判R5.8.7ウエストロージャパン2023WLJPCA08078009)
    判断のポイント: 人を侮辱する目的が明らかな、直接的で強い蔑称であり、許される限度を超えると判断されました。
  • 「顔にダニ飼ってそう」「シラミも追加で!!!!」「オッエェェ」(東京地判R4.11.18ウエストロージャパン2022WLJPCA11188006)
    判断のポイント: 人に害を与える生き物と人の顔を結びつけ、さらに嫌悪感を露わにする表現でからかう行為は、我慢の限度を超えると判断されました。
  • 「顔どうした~」「加工失敗かw」「白すぎて気味が悪いww」(東京地判R4.11.18ウエストロージャパン2022WLJPCA11188016)
    判断のポイント: 被害者の容姿について、複数の言葉を重ねてしつこくからかう行為は、名誉感情(個人のプライド)を侵害するものと認められました。

パターン2:対象者の人格や存在そのものを否定するような言葉

個人の存在価値を否定したり、危害を加えることをほのめかしたり、人種や性別などを理由に差別したりする表現は、特に悪質と判断される傾向にあります。

<裁判で侮辱と認められた表現の例>

  • 「殺処分でいいやん」(東京地判R5.12.8ウエストロージャパン2023WLJPCA12086003)
    判断のポイント: 重い障害を持つ方に対し、その「生きる意味や価値を否定する」ものであり、誰が見ても見過ごすことができない、極めて悪質な侵害行為だと判断されました。
  • 「しんだ〇〇だよ」(東京地判R5.8.7ウエストロージャパン2023WLJPCA08078011)
    判断のポイント: 人の名前と「死」を結びつけ、人格を否定する意図が明白な侮辱表現であり、我慢の限度を超える侵害行為だと判断されました。
  • 「やめさせる勢いで名指しで書いてとことん追い詰めてやればいいじゃん。Xにプライバシーの保護にしろ人権なんてないんだから。」(東京地判R5.11.10ウエストロージャパン2023WLJPCA11108014)
    判断のポイント: 人間として当然持っているはずの人権を否定する内容は、我慢の限度を超えた侮辱であると判断されました。
  • 「鮮ちょん」(東京地判R5.6.11ウエストロージャパン2023WLJPCA06228003)
    判断のポイント: 特定の民族を侮辱する差別的な蔑称を用いた悪質な表現であり、社会的に許される範囲を明らかに超えると判断されました。

パターン3:対象者の個人の社会的な信用を失わせるようなレッテル貼り

個人の能力や行動、社会的立場について、事実に基づかず一方的に決めつけ、その人の社会的評価を著しくおとしめる表現も「侮辱」と判断されることがあります。

<裁判で侮辱と認められた表現の例>

  • 「おーいお巡りさーん放火犯人のXがいまーす早く捕まえて下さーい」(東京地判R5.11.10ウエストロージャパン2023WLJPCA11108014)
    判断のポイント: 放火という重大な不法行為を犯したかのような印象を与える投稿は、相手を中傷するものであり、我慢の限度を超えると判断されました。
  • 「コミュ症」「全然何言ってるかわからん…」(東京地判R5.10.12ウエストロージャパン2023WLJPCA10126003)
    判断のポイント: 動画投稿チャンネルで配信された会話の一部を切り取り、本人の人格をからかうような動画タイトルなどをつける行為は、単なる批評を超え、個人のプライドを傷つけると判断されました。
  • 「代理ミュンヒハウゼン症候群じゃねーかって感じすら見受けられる」(東京地判R5.3.9ウエストロージャパン2023WLJPCA03098004)
    判断のポイント: 非常に特殊な精神疾患名を使い、「自分の子どもを病気に仕立て上げている母親だ」と指摘するかのような表現は、相手を中傷するものであり、我慢の限度を超えた侮辱だと判断されました。
  • 「あー、Aくん通知せんで動画アップしたんかwww 普通に動画上がってたわ詐欺師動画www #B」(東京地判R4.12.26ウエストロージャパン2022WLJPCA12269011)
    判断のポイント:「詐欺師動画」という表現につき、対象者のYouTuberとしての信用及び自尊心を著しく損なうものであり、我慢の限度を超える侮辱行為だと判断されました(なお、当該表現については名誉毀損の成立も認められています)。

まとめ:どのような場合に「侮辱」と判断されやすいか

裁判所が「侮辱」にあたるかどうかを判断する際には、様々な要素が総合的に考慮されますが、特に以下の点が重要になるといえるでしょう。


  • 言葉のキツさと悪質性
    直接的な悪口、差別的な表現、人格否定、犯罪者扱いなど、言葉の攻撃性が強いほど違法と判断されやすくなります。
  • 投稿の状況や文脈
    どのような意図で投稿されたか(正当な批判か、個人的な攻撃か)、どれだけしつこく繰り返されたか、なども考慮されます。
  • 一般の人がどう受け取るか
    ごく普通の人であれば誰でも、その表現を見たときに「これは酷い」と感じるようなものかどうかがポイントです。

自分ではどうしようもない身体的特徴への悪意ある攻撃や、犯罪者扱い、人としての尊厳を踏みにじるような表現、「死ね」といった生命を脅かすような言葉は、我慢の限度を超える「侮辱」と判断される可能性が非常に高いと言えるでしょう。

一方で、表現が抽象的で単なる感想にとどまる場合や、公共の利害に関する事柄への批判で人格攻撃にまで至っていない場合などは、侮辱にあたらないと判断されることもあります。

ネット上の誹謗中傷でお悩みの方は、一人で抱え込まずお早めに弁護士にご相談ください。


【免責事項】
本記事の内容は、掲載時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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