X(旧ツイッター)で投稿について「リポスト」(判決当時の名称は「リツイート」)をしたり、「いいね」をしたりすることは、ごく日常的な操作といえるでしょう。仮に、元の投稿に名誉毀損などにあたる内容が含まれていたとしても、自分で文章を書いたわけではないから、法的な責任を負うのは元の投稿者だけだと考える人もいるかもしれません。
しかし、人の社会的評価を下げるツイートをコメントなしでリツイートした人に、賠償を命じた判決があります(大阪高裁令和2年6月23日判決)。[1]また、他人を侮辱するツイートへの「いいね」について、賠償を命じた判決もあります(東京高裁令和4年10月20日判決)。[2]この記事では、2つの判決の考え方と、リポストした人を特定できるかを解説します。
この記事のポイント
- コメントなしのリポストでも責任を負い得る: 大阪高裁は、元の投稿が人の評価を下げる内容なら、意図や動機を問わず責任を負うとしました。
- 「いいね」は経緯や回数次第: 東京高裁は、それまでの経緯や回数から侮辱への賛意と認め、賠償を命じました。
- すべての拡散が違法になるわけではありません: どちらも、投稿の内容や行為者の影響力など、個別の事情を踏まえた判断です。
リポスト・引用・「いいね」の違い
大阪高裁は、当時のツイッターの機能を次のように整理しています。コメントを付けない「単純リツイート」では、元の投稿者のアイコンと名前が表示されます。リツイートした人の名前は、その上に小さく表示されるだけです。これに対し、コメントを付ける「引用リツイート」は、リツイートした人自身の投稿として表示されます。[3]
「いいね」について、東京高裁は、投稿に好意的・肯定的な感情を示すものと一般に理解されているとしました。もっとも、ブックマーク代わりに使われることもあると指摘しています。[4]
事件1:コメントなしのリツイート(大阪高裁)
ジャーナリストのBさんは、元知事のAさんが在任中の言動で職員を自殺に追い込んだ、という趣旨の第三者のツイートを、コメントなしでリツイートしました。Bさんのフォロワーは18万人を超えていました。Bさんは、単純リツイートからは賛否を読み取れないなどと主張しました。
高裁は、単純リツイートは、特段の事情がない限り、元の投稿をそのままの形でフォロワーが読める状態に置く行為だとしました。そして、元の投稿が他人の社会的評価を下げる内容なら、「経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず」責任を負うと判断しました(真実であることの証明があるなど、違法性等が否定される場合を除きます)。[5]
また、投稿は短期間のうちに際限なく拡散し得るとして、単純リツイートでも相応の慎重さが求められるとしています。提訴までに削除されていたことなどを考慮しても、違法性の程度が重大でないとはいえないとされ、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の支払が命じられました。[6]第一審も同じ結論で、この判決は確定しています。
事件2:「いいね」(東京高裁)
国会議員のYさんは、自らの性被害を公表したジャーナリストのXさんを揶揄・中傷する他人のツイート25件に、「いいね」を押しました。Yさんは、それ以前から番組やブログなどでXさんを批判していました。
第一審はXさんの請求を棄却しましたが、高裁は結論を改めました。高裁は、「いいね」がどの部分への共感かは当然には明らかにならないため、ツイートの内容、当事者の関係、押すまでの経緯を検討すべきだとしました。
そのうえで、Yさんが侮辱的なツイートに多数の「いいね」を押す一方、自分に批判的なツイートには押していなかったことなどから、侮辱への賛意と認めました。さらに、回数の多さ、名誉感情を害する意図、約11万人のフォロワーと国会議員としての影響力を考慮しました。結論として、社会通念上許される限度を超える侮辱行為にあたるとして、慰謝料50万円と弁護士費用5万円の支払を命じています。[7]この判決に対しては上告等がされましたが、最高裁は令和6(2024)年2月8日付けでこれを退ける決定をし、判決は確定したと報じられています。[8]
引用投稿の場合
コメントを付けた引用投稿(Xでいう「引用ポスト」)は、投稿した人自身の投稿として表示されます。大阪高裁も、表示が加わって投稿の意味が変わったといえる「特段の事情」があれば別だとしています。そのため、コメントと元の投稿を合わせた全体がどう読めるかが問われると考えられます。批判のコメントを付けたからといって、当然に責任を免れるわけではない点に注意が必要です。
リポストした人を特定できるか
匿名のアカウントによるリポストについては、発信者情報開示請求でその人の特定を求めることが考えられます。法律は、情報を記録・入力した者を「発信者」とし、権利侵害が明らかであることなどを開示の要件としています(情報流通プラットフォーム対処法2条5号、5条1項)。[9]
最高裁令和2年7月21日判決は、写真の著作者の権利に関する事案ですが、リツイートした人が「侵害情報の発信者」にあたるとして、開示を認めた判断を是認しました。[10]名誉毀損にあたるリポストも、権利侵害が明らかといえれば開示の対象となり得ると考えられます。
この判決の意義
2つの判決は、自分で文章を書かなくても、拡散や賛意の表明によって法的な責任が生じる場合があることを示しました。もっとも、人の評価を下げる内容を含む投稿をリポストしたり、「いいね」をしたりしたことで、ただちに法的な責任が生じるというわけではありません。
大阪高裁の事案は、具体的な事実を示して評価を下げる内容で、真実であることの証明もありませんでした。東京高裁の事案では、25回という回数、長く続いた批判の経緯、国会議員の影響力が重視されています。「いいね」を1回押しただけの場合に、そのまま当てはまるものではありません。
まとめ
リポストは、元の投稿を自分のフォロワーに改めて届ける行為です。大阪高裁は、コメントのない単純なリツイートでも、意図を問わず責任を負い得ると判断しました。「いいね」も、経緯や回数によっては侮辱行為とされた例があります。
どちらも事案に即した判断であり、リポストや「いいね」が一律に違法とされたわけではありませんが、リポストや「いいね」をする前に、元の投稿について内容をいま一度確認し、問題がないかを考えてみることが重要といえるでしょう。
文末注
- 大阪高等裁判所令和2年6月23日判決(令和元年(ネ)第2126号)(裁判所HP掲載)。人の社会的評価を低下させる内容の表現を含むツイートを単純リツイートした者が不法行為責任を負うとされた事例として参照。第一審は大阪地方裁判所令和元年9月12日判決。本判決が確定したことは、判例タイムズ1495号127頁の掲載記事によります。 判決を見る ↩
- 東京高等裁判所令和4年10月20日判決(令和4年(ネ)第1922号)(裁判所HP掲載)。他人を侮辱する内容のツイートに「いいね」を押した行為が名誉感情を違法に侵害するとされた事例として参照。第一審は東京地方裁判所令和4年3月25日判決(請求棄却)。 判決を見る ↩
- 前掲・大阪高裁判決(「当裁判所の判断」1(1))。単純リツイートと引用リツイートの操作方法及び画面上の表示について参照。 判決を見る ↩
- 前掲・東京高裁判決(「当裁判所の判断」1(2)・(3)ア)。「いいね」が好意的・肯定的な感情を示すものと一般に理解されている一方、二者択一であり、ブックマークとして使用される場合もあることについて参照。 判決を見る ↩
- 前掲・大阪高裁判決(「当裁判所の判断」2(2))。単純リツイートが、特段の事情がない限り元のツイートの表現内容をそのままの形でフォロワーの閲読可能な状態に置く行為であり、経緯、意図、目的、動機等のいかんを問わず不法行為責任を負うとした判示について参照。 判決を見る ↩
- 前掲・大阪高裁判決(「当裁判所の判断」3・4)。単純リツイートの場合を含め投稿者に相応の慎重さが求められるとした判示、提訴時までに削除されていたこと等を考慮しても違法性の程度が重大でないとはいえないとした判示、及び慰謝料30万円・弁護士費用3万円の認定について参照。 判決を見る ↩
- 前掲・東京高裁判決(「当裁判所の判断」1(3)イ・(4)、2)。「いいね」を押すに至る経緯等から侮辱への賛意を認定し、回数、加害の意図、フォロワー数、国会議員としての影響力を考慮して社会通念上許される限度を超える侮辱行為と判断し、慰謝料50万円・弁護士費用5万円を認めた点について参照。 判決を見る ↩
- 日本経済新聞電子版「杉田水脈議員が敗訴 中傷投稿『いいね』で賠償、初の確定」(令和6(2024)年2月9日)。最高裁第一小法廷が令和6(2024)年2月8日付けで上告を退ける決定をし、前掲・東京高裁判決が確定したとの報道について参照。 資料を見る ↩
- 情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律・平成13年法律第137号)2条5号・5条1項。「発信者」の定義、及び権利侵害が明らかであること等を開示請求の要件とする規定について参照。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 最高裁判所第三小法廷令和2年7月21日判決(平成30年(受)第1412号)・民集74巻4号1407頁(裁判所HP掲載)。リツイート者が当時のプロバイダ責任制限法4条1項の「侵害情報の発信者」に該当するとされた点について参照。 判決を見る ↩