弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

SNSのなりすましアカウント被害|削除と投稿者の特定はできる?

令和8(2026)年8月9日


自分の名前や顔写真を使った「なりすまし」のアカウントがSNS上に作られ、身に覚えのない投稿をされてしまう——こうした被害のご相談が増えています。被害に遭った方がまず気になるのは、「そのアカウントや投稿を消せるのか」、そして「誰が作ったのかを特定できるのか」という2点ではないかと思います。

この記事では、削除の手続と、発信者情報開示(=投稿した人の情報をプロバイダ(通信事業者やSNS運営会社)から開示してもらう手続)の仕組みに沿って、この2つの問いを整理します。

この記事のポイント

  • 削除には2つのルートがあります: SNS運営会社の規約に基づく通報と、権利侵害を理由とする法的な削除請求という2つの方法があります。
  • 特定には「権利侵害の明白性」が必要です: 「なりすまされた」というだけでは足りず、名誉毀損などが明らかといえるかが、投稿者を特定できるかどうかの分かれ目になります。
  • 結論は投稿の内容と事情しだいです: 同じなりすまし事案でも、第一審と控訴審で結論が分かれた例があります。投稿が本人のものと受け取られ、社会的評価を下げるといえるかなどが分かれ目になりました。

なりすましには2つのパターンがあります

一つは、本人になりすまして投稿するパターンです。本人の氏名・肩書・アイコン写真などを使い、本人が言っていないことを言ったかのように見せるものです。

もう一つは、他人の写真や氏名だけを無断で使い、プロフィールを作るパターンです。

投稿の内容が本人の社会的評価を下げるものであれば「名誉毀損」が、写真を無断で使われていれば「肖像権侵害」が、私生活の情報が含まれていれば「プライバシー侵害」が、それぞれ問題となり得ます。こうした個別の権利侵害を具体的に組み立てて主張していくのが基本になります。

なお、これらとは別に、「他人になりすまされない利益」(いわゆるアイデンティティ権)を人格的な利益としてとらえる考え方もありますが、確立した判断枠組みとまではいえません。

削除を求める2つのルート

一つめは、SNS運営会社への通報です。主要なプラットフォーマーは、利用規約でなりすましを禁止しており、専用フォームからの削除申請を受け付けています。たとえば、X(旧Twitter)、Instagram、Facebookは、いずれもなりすましを報告するための専用の窓口を設けています。運営会社の自主的な判断によるため、必ず削除されるとは限りませんが、費用をかけずに試せる最初の一歩です。

二つめは、権利侵害を理由とする法的な削除請求です。運営会社に対して送信防止措置(=問題の投稿を見られない状態にすること)を申し出て、応じてもらえない場合には、裁判所に削除仮処分(または削除請求訴訟)を申し立てるという流れになります。この方法をとるには、自身のどのような権利がどのように侵害されているのかを示す必要があります。

投稿者を特定できるのか

投稿者が誰かを特定するには、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法。旧・プロバイダ責任制限法)に基づく発信者情報開示という手続を使います。

なりすましの場合も、この「権利侵害が明らか(明白)である」という要件を満たす必要があります。単になりすまされたという事情だけでなく、名誉毀損などの権利侵害が明らかといえてはじめて、特定を進めることができます。

裁判例にみる判断の分かれ目

なりすましをめぐっては、同じ事案で第一審と控訴審の判断が分かれた例があります。SNSの掲示板で、第三者が本人の顔写真と、その名前をもじった表示名を使い、ほかの利用者を侮辱するような投稿をした、というなりすまし事案です。

第一審(大阪地方裁判所 平成28(2016)年2月8日判決)は、投稿の内容や掲示板の性質などから名誉毀損にはあたらないとし、写真も本人が自らSNSに公開していたものであることなどから、開示請求を認めませんでした。

これに対し控訴審(大阪高等裁判所 平成28(2016)年10月6日判決)は、結論を変えました。投稿自体はほかの利用者に向けたものであっても、本人の顔写真と名前をもとにした表示名が使われているため、読み手は「本人がこうした侮辱的な投稿をする人物だ」と受け取りかねず、本人の社会的評価が低下する可能性が高いと判断したのです。

そのうえで、名誉毀損として「権利が侵害されたことが明らか」といえるとして、投稿者の情報の開示を命じました(この判断で確定しています)。

この事案は、投稿の文言が直接その人を指していなくても、なりすましによって本人の投稿と受け取られることで名誉毀損になり得ることを示しています。なお第一審では、名誉やプライバシーとは別に「なりすまされない利益(アイデンティティ権)」の侵害も主張されましたが、控訴審はこの点に判断を示していません。

実務上の注意

注意していただきたいのは、投稿者にたどり着く手がかりとなる通信の記録(ログ)が、一定期間で消えてしまうことです。時間が経つほど特定は難しくなりますので、被害に気づいた段階で、投稿のスクリーンショット(URL、投稿日時、投稿内容等がきちんと確認できる状態のもの)を保存しておくこと(証拠保全)が大切です。

なお、運営会社への通報と法的な手続は、どちらか一方に決める必要はなく、並行して進めることもできます。手続の窓口や必要な書類はプラットフォームごとに異なりますので、それぞれの案内を確認しながら動くことになります。

まとめ

なりすまし被害への対応は、「規約に基づく通報」と「権利侵害を理由とする法的手続」を、状況に応じて使い分けたり、並行して進めたりするのが基本です。削除も特定も、なりすましという形式そのものではなく、名誉毀損などの個別の権利侵害を具体的に示せるかどうかが鍵になります。

出典・参照資料

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

この記事は参考になりましたか?

0

この記事を書いた弁護士

この記事を書いた弁護士

弁護士 櫻町直樹

櫻町 直樹(さくらまち なおき)

弁護士(東京弁護士会・2009年登録)/内幸町国際総合法律事務所 パートナー

インターネット上の投稿に関する発信者情報開示請求、削除請求、損害賠償請求及び意見照会への対応を主に取り扱っています。 従業員・元従業員による投稿や転職クチコミなど、インターネット問題と労働法務が交差する案件にも対応しています。

主な著作(いずれも共著)

  • 『事例大系 インターネット関係事件 紛争解決の考え方と実務対応』ぎょうせい・2025年
  • 『最新事例でみる 発信者情報開示の可否判断』新日本法規出版・2022年
  • 『最新 プロバイダ責任制限法判例集』LABO・2016年

プロフィール・取扱分野の詳細

投稿への対応をご検討中の方へ

サイト運営者や通信事業者が保有する記録には保存期間があります。投稿者の特定をご希望の場合は、 できるだけ早い段階でのご相談をご検討ください。

弁護士費用はこちら / 03-5501-7216 (月〜金 9:30〜17:00)