弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

発信者情報開示・削除請求を弁護士に依頼する際の" ポイント "

令和8(2026)年6月26日


インターネット上で誹謗中傷、名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害などの被害を受けた場合、被害者として取り得る主な法的対応には、投稿の削除請求、発信者情報開示請求、開示後の損害賠償請求などがあります。

もっとも、これらの手続は、単に「投稿を消したい」「投稿者を特定したい」と考えれば直ちに進められるものではありません。投稿の内容、掲載媒体、投稿日時、削除と開示の優先順位などを踏まえて、事案ごとに方針を整理する必要があります。

この記事では、発信者情報開示請求や削除請求を弁護士に依頼する際に、どのような点を確認すべきか、相談前に何を準備すべきかを実務上の観点から分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • 1 削除請求(被害の拡大防止)と発信者情報開示請求(投稿者の特定)は目的が全く異なる手続であり、事案に応じた適切な優先順位の検討が必要です。
  • 2 弁護士を選ぶ際には、対象となるネット媒体の取扱経験や権利侵害の具体的な見立てはどうか、明確な費用体系があるか等を確認します。
  • 3 相談前にあたっては、URLや投稿日時等の情報を整理し、また、スクリーンショット等の証拠を適切に保全しておくことで、弁護士による迅速な初動判断が可能になります。

1 発信者情報開示請求と削除請求は、目的が異なる

まず押さえておくべきなのは、発信者情報開示請求削除請求は、目的が異なる手続であるという点です。

削除請求は、インターネット上の投稿、画像、動画、口コミ、検索結果などを削除し、被害の拡大を防止するための手続です。名誉毀損・侮辱、プライバシー侵害、肖像権侵害、著作権侵害など、どの権利がどのように侵害されているのかを整理したうえで、サイト管理者、プラットフォーム事業者、サーバー管理者等に対して削除を求めます。任意の削除申請で対応されない場合には、裁判所への仮処分申立てなどを検討します。

これに対し、発信者情報開示請求は、匿名投稿の投稿者を特定するための手続です。コンテンツプロバイダに対してIPアドレスやタイムスタンプ等の開示を求め、さらにアクセスプロバイダに対して契約者の氏名・住所等の開示を求めるなど、投稿者特定に必要な情報の開示を求めます。現在は、従来の仮処分手続きのほか、情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示命令申立てなどの手続が利用されます。

したがって、「投稿を消すこと」と「投稿者を特定すること」は、同じ問題に見えても、別個の検討が必要です。投稿を早く削除したいのか、投稿者を特定して責任追及したいのか、あるいはその両方を行うべきなのかを、早い段階で整理することが重要です。

2 削除を急ぐべき場合と、開示を優先すべき場合

被害者としては、まず問題の投稿を削除したいと考えることが多いと思われます。たしかに、個人情報が晒されている場合、写真や動画が無断掲載されている場合、会社や店舗の信用に深刻な影響を与える悪質な口コミが掲載されている場合などには、削除を急ぐ必要があります。

しかし、削除を急ぎすぎると、投稿者特定に必要な情報の保全が難しくなることがあります。投稿が削除された後も、プラットフォーム側やプロバイダ側にログが残っていれば開示が可能な場合はありますが、ログ保存期間には限りがあります。また、URL、投稿日時、投稿内容等についての証拠保全が不十分なまま削除されると、その後の開示請求や損害賠償請求に支障が出ることがあります。

そのため、削除を申し立てる前に、まず証拠を保全(スクリーンショットの取得等)し、発信者情報開示の可能性を検討する必要があります。

一方で、次のような場合には、削除を優先すべきことがあります。


  • ・住所、勤務先、電話番号、家族情報などの個人情報が掲載されている場合
  • ・顔写真、裸画像、私生活上の画像などが無断掲載されている場合
  • ・虚偽の犯罪歴、不倫、反社会的勢力との関係など、社会的評価への影響が大きい投稿が拡散している場合
  • ・企業や団体、専門家等の信用に直接影響する投稿が表示されている場合

他方で、次のような場合には、開示を優先し、または削除と並行して開示を進めることを検討すべきです。


  • ・同じ人物による投稿が継続していると考えられる場合
  • ・削除しても別アカウントや別サイトで投稿が繰り返される可能性が高い場合
  • ・投稿者に対して損害賠償請求や刑事告訴を検討している場合
  • ・投稿者が関係者である可能性があり、今後の紛争予防のためにも特定が必要な場合

削除と開示のどちらを先に行うべきかは、事案ごとの判断になります。弁護士に相談する際には、「消すことを最優先したいのか」「投稿者を特定したいのか」「損害賠償まで考えているのか」を率直に伝えることが重要です。

3 弁護士を選ぶ際に確認すべき事項

発信者情報開示請求や削除請求は、一般的な民事事件とは異なる実務上の注意点があります。弁護士に依頼する場合には、少なくとも次の点を確認するとよいでしょう。

対象媒体の取扱経験

まず、問題となっている媒体についての取扱経験を確認します。

同じインターネット上の投稿であっても、X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTok、Google口コミ、電子掲示板、転職口コミサイト、ブログ、検索エンジンなど、掲載媒体が違えば、申請の相手方がそれぞれ異なります。相談時には、「この媒体での削除・開示の経験があるか」「類似の媒体についてどのような方針を取ることが多いか」を確認することが有益です。

権利侵害の見立て

次に、対象投稿がどのような権利侵害にあたるのかについて、具体的な見立てを示してもらうことが重要です。

発信者情報開示請求では、単に「不快である」「許せない」というだけでは足りません。名誉権、名誉感情、プライバシー、肖像権、著作権、営業上の利益など、誰のどのような権利が侵害されているのかを整理する必要があります。

また、名誉毀損であれば、投稿が事実を摘示するものなのか、意見・論評にとどまるのか、社会的評価を低下させる内容なのか、違法性阻却事由についての反論が想定されるのかを検討する必要があります。プライバシー侵害であれば、私生活上の事実またはそれに準ずる情報か、一般人であれば公開を望まない内容か、すでに公表されている情報かなどが問題になります。

弁護士を選ぶ際には、「開示できそうです」「削除できます」といった結論だけではなく、その理由を具体的に説明してもらえるかを確認すべきです。

削除と開示の優先順位を説明できるか

発信者情報開示と削除は、しばしば同時に問題になります。しかし、すべての事案で同じ手順を取るわけではありません。

早急に削除を申し立てるべき事案もあれば、開示を優先すべき事案もあります。削除申請を行うことで相手方が投稿を消したり、アカウントを削除したりする可能性もあります。そのため、削除と開示をどの順序で進めるかは重要です。

相談時には、「削除を先に行うべきか」「開示を先に行うべきか」「両方を並行すべきか」「それぞれのメリット・デメリットは何か」を説明してもらうとよいでしょう。

ログ保存期間への意識

発信者情報開示では、ログ保存期間が重要です。投稿から時間が経過すると、投稿者特定に必要な通信記録が消去され、開示が困難になることがあります。

そのため、問題投稿を発見したら、できるだけ早く相談する必要があります。弁護士に相談する際にも、URL、投稿日時、投稿内容、媒体名、アカウント名などの情報を正確に伝えることが重要です。

弁護士側においても、ログ保存期間を踏まえたスケジュール感を持っているか、必要に応じて消去禁止命令やログ保存要請を検討できるかは、重要な確認ポイントです。

開示後の対応まで見通しているか

発信者情報開示は、投稿者を特定するための手続です。投稿者が特定された後は、削除・損害賠償請求、刑事告訴などを検討することになります。

したがって、発信者情報開示だけでなく、開示後にどのような責任追及を行うのかまで見通しておく必要があります。

開示後の交渉や訴訟まで対応できるか等についても、依頼前に確認しておくとよいでしょう。

費用体系が明確か

削除請求や発信者情報開示請求では、対象投稿の数、媒体の種類、任意請求か裁判手続か、開示後の損害賠償請求まで行うかによって、費用が変わります。

依頼前には、少なくとも次の点を確認すべきです。


  • ・相談料
  • ・着手金
  • ・報酬
  • ・実費
  • ・投稿1件ごとの費用か、アカウント単位・媒体単位の費用か
  • ・削除請求と発信者情報開示請求を別料金とするか
  • ・開示後の損害賠償請求の費用
  • ・途中で方針変更した場合の追加費用

費用が明確でないまま依頼すると、後で認識の違いが生じることがあります。依頼前に、見積書や委任契約書で確認することが重要です。

4 相談前に準備すべき証拠

発信者情報開示請求や削除請求では、初動の証拠保全が重要です。相談前に可能な範囲で、次の資料を準備しておくと、方針判断がしやすくなります。


  • ・対象となる投稿のURL
  • ・投稿画面のスクリーンショット
  • ・アカウント名・ユーザー名
  • ・投稿の前後関係が分かる画面のスクリーンショット
  • ・検索結果に表示されている場合は、検索語句と検索結果画面
  • ・投稿によって生じた被害の内容
  • ・相手方に心当たりがある場合は、その事情を整理したメモ

スクリーンショットを撮る場合には、投稿本文だけでなく、URL、投稿日時、アカウント名、表示画面全体が分かるように保存することが望ましいです。スマートフォンの画面だけでは情報が不足することもあるため、パソコンで表示させた画面のスクリーンショットを取得することを原則としましょう。

また、投稿を発見した後、感情的に反論したり、相手に直接連絡したりすると、かえって紛争が拡大することがあります。特に、相手方が匿名である場合や、継続的な嫌がらせをしている場合には、まず証拠を保全し、対応方針を整理することが重要です。

5 よくある誤解

「悪口なら必ず削除できる」というわけではない

インターネット上の投稿が不快であっても、必ず削除できるわけではありません。批判的な意見、論評、感想の範囲にとどまる場合には、違法な権利侵害とまではいえないことがあります。

他方で、事実無根の犯罪行為を指摘する投稿、職業上の信用を害する投稿、私生活上の情報を暴露する投稿、容姿や人格を執拗に侮辱する投稿、写真や動画を無断掲載する投稿などは、法的対応の対象となる可能性があります。

問題は、「嫌な投稿かどうか」ではなく、「法的にどの権利が侵害されているといえるか」です。

「匿名だから特定できない」とは限らない

匿名アカウントによる投稿であっても、発信者情報開示請求により投稿者を特定できる場合があります。もっとも、ログ保存期間、媒体の仕様、投稿からの経過時間などにより、手続きの難易度は変わってきます。

そのため、投稿を発見した場合には、時間を置かずに相談することが重要です。

「削除すれば終わり」とは限らない

投稿の削除に加えて、投稿者に対する損害賠償請求を検討することがあります。また、同じ投稿者が別の場所で投稿を繰り返す可能性がある場合には、再発防止のためにも投稿者の特定が必要となることがあります。

削除だけで足りる事案なのか、開示や損害賠償請求まで進めるべき事案なのかは、被害状況によって異なります。

「裁判所に申し立てれば必ず開示される」わけではない

発信者情報開示請求では、権利侵害が明らかであることや、開示を受けるべき正当な理由があることなどが問題になります。投稿内容が違法な権利侵害にあたるといえるか、開示を求める正当な理由があるか等を主張立証する必要があります。

したがって、手続を選択する前に、開示の見込み、必要な証拠が揃っているか、費用対効果を検討することが重要です。

6 個人と法人・事業者で検討すべき点は異なる

個人が被害者となる場合と、法人・事業者が被害者となる場合では、検討すべき点が異なります。

個人の場合には、名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害、名誉感情侵害などが問題となることが多く、精神的苦痛、生活上の支障、家族や職場への影響などを整理する必要があります。

法人・事業者の場合には、信用毀損、業務妨害、営業上の利益の侵害、取引先への影響、採用活動への影響、口コミ評価への影響などが問題となります。投稿によって実際に問い合わせが減った、取引先から確認を受けた、採用応募に影響が出た、顧客から苦情が来たなどの事情があれば、資料として整理しておくことが重要です。

法人・事業者の案件では、単に投稿を削除するだけでなく、同種投稿の再発防止、検索結果対策、社内外への説明、広報対応、投稿者への責任追及なども含めて検討することがあります。

7 弁護士に相談するタイミング

発信者情報開示請求や削除請求では、早期相談が重要です。

特に、匿名投稿者の特定を検討している場合には、ログ保存期間の問題があるため、投稿から時間が経過するほど不利になります。投稿を見つけた時点で、証拠を保存し、早めに相談することが望ましいです。

また、次のような場合には、早期に弁護士へ相談することを検討してください。


  • ・投稿が拡散している
  • ・個人情報が掲載されている
  • ・虚偽の事実を投稿されている
  • ・勤務先、取引先、家族に影響が出ている
  • ・会社や店舗の信用に関わる投稿がある
  • ・同じ人物による嫌がらせが続いている
  • ・相手方を特定して損害賠償を請求したい
  • ・削除申請をしたが対応されない
  • ・自分で対応してよいか判断できない

反対に、投稿に反論したり、投稿者に直接連絡したりする前に、まず証拠を保全することが重要です。対応の順序を誤ると、証拠が消えたり、相手方が警戒してアカウントを削除したりすることがあります。

8 依頼時に確認しておきたい質問例

弁護士に相談する際には、次のような質問をしておくと、方針を理解しやすくなります。


  • ・この投稿は、どの権利の侵害として構成できるか
  • ・削除請求と発信者情報開示請求のどちらを優先すべきか
  • ・任意の削除申請で足りるか、裁判手続が必要か
  • ・発信者情報開示命令申立てを利用すべきか
  • ・ログ保存期間との関係で急ぐ必要があるか
  • ・どのような資料を追加で準備すべきか
  • ・開示の見込みはどの程度か
  • ・削除の見込みはどの程度か
  • ・費用はどの段階でいくらかかるか
  • ・開示後の損害賠償請求まで依頼できるか
  • ・投稿者が判明した後、どのような解決方法が考えられるか

これらの質問に対し、具体的な理由をもって説明してもらえるかどうかは、弁護士を選ぶうえで重要です。

9 まとめ

発信者情報開示請求や削除請求を弁護士に依頼する際には、次のような点に着目するのがよいでしょう。


  • ・問題となっている媒体について過去に経験があるか
  • ・名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害などの法的構成を具体的に説明できるか
  • ・削除と開示の優先順位を事案に応じて検討できるか
  • ・ログ保存期間を踏まえた迅速な対応ができるか
  • ・開示後の損害賠償請求まで見通しているか
  • ・費用体系が明確か
  • ・証拠保全について具体的な助言があるか

インターネット上の権利侵害は、放置すると被害が拡大する一方で、初動対応を誤ると投稿者の特定や責任追及が難しくなることがあります。投稿を削除したいのか、投稿者を特定したいのか、損害賠償まで求めたいのかを整理したうえで、早めに相談することが重要です。

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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