令和8(2026)年10月14日、最高裁判所大法廷で、刑務所で服役している人(受刑者)の選挙権を一律に認めない公職選挙法の規定が、憲法に違反するかを争う事件の弁論が開かれる予定です。 [1]

本件は、懲役7年の刑の執行を受けていた人(以下「Aさん」とします)が、国政選挙や最高裁判所裁判官の国民審査で投票できなかったことから、国を相手に、投票できる地位の確認と損害賠償を求めた事案です。 一審・二審はいずれも規定を合憲と判断しており、最高裁の結論はまだ出ていません。

この記事のポイント

  • 最高裁大法廷が審理: 受刑者の選挙権を一律に制限する規定が憲法に適合するかが、大法廷(15人の裁判官全員で構成する法廷)で審理されています。
  • 下級審の判断は分かれている: 本件の一審・二審は合憲としましたが、別の事件では違憲とした判決もあります。

事件の背景

公職選挙法11条1項2号は、「拘禁刑以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」は選挙権を有しないと定めています。 [2] Aさんが投票できなかった当時は「禁錮以上の刑」という文言でしたが、刑罰の名称が改められ、現在は「拘禁刑」となっています。

また、国民審査の審査権は「衆議院議員の選挙権を有する者」に認められています。 [3] そのため、選挙権がなければ国民審査にも参加できません。

Aさんは、令和3(2021)年10月31日の衆議院議員総選挙・国民審査と、令和4(2022)年7月10日の参議院議員通常選挙で投票できませんでした。 そこで、国会が規定を改めなかったこと(立法不作為)によって損害を受けたとして、計3万円の賠償も求めています。 [4]

裁判での争点

最高裁が公表している主な争点は、①選挙権と審査権を制限する規定が憲法15条1項等に違反するか、②国会が規定を改めなかったことが国家賠償法上違法といえるか、の2つです。 [5]

判断の手がかりとなるのが、海外に住む日本人の選挙権が争われた最高裁大法廷平成17年9月14日判決です。 同判決は、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」の選挙権の制限は別として、選挙権やその行使を制限するには「やむを得ないと認められる事由」が必要だとしました。 [6]

選挙違反ではない一般の犯罪で服役している人が、この「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に含まれるのか。 ここが大きな分かれ目になります。

これまでの裁判所の判断

一審東京地裁令和5年7月20日判決は、選挙人の資格そのものが問題となる本件は平成17年判決とは事案が異なるとして、その厳格な基準によらず、国会には選挙人の資格を定めるについて合理的な裁量があるとしました。 そのうえで、受刑者は「自ら法秩序を著しく害した者」であり、選挙人から除くことには合理性があると判断しています。 [7] 受刑者にも憲法改正の国民投票の投票権が認められている点については、国民投票と国政選挙は性質が異なるとして、立法裁量の範囲内としました。

控訴審東京高裁令和6年3月13日判決も、合憲の結論を維持しました。 ただし、一審とは異なり、平成17年判決の判断枠組みが本件にも及ぶとしています。 [8]

そのうえで高裁は、一般の犯罪による受刑者は選挙の公正を害する罪を犯したわけではないと認めました。 しかし、最低限守るべき刑罰法令に違反し、社会から隔離して処遇する必要があると判断された点で、規範意識が欠如し、又は著しく低下しているとしています。 そのため、選挙に参加する「資格・適性がないと疑うに足りるやむを得ない事由がある」として、「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」の「等」に含まれると判断しました。

一方、別の受刑者が起こした訴訟で、大阪高裁平成25年9月27日判決は、同じ規定のうち選挙権を制限する部分を憲法違反と判断しました(ただし、国家賠償請求は棄却しています)。 この判決は確定しています。 [9]

最近では、高松地裁令和8年3月31日判決が、同じ規定を憲法違反と判断しています。 [10] この事件は、仮釈放(刑期の途中で刑務所を出て、残りの期間を社会の中で過ごす制度)中だった受刑者が選挙人名簿に登録されなかったことを争ったものです。 同判決は、平成17年判決の枠組みによるべきだとしたうえで、受刑者は「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に当たらず、選挙権を制限する「やむを得ない事由」もないと判断しました。 この判決に対しては、高松市選挙管理委員会が最高裁に上告したと報じられており、まだ確定していません。 [11]

この裁判が私たちの生活に与える影響

選挙権は国民が政治に参加するための基本的な権利です。 どのような理由で、どこまで制限できるかという問題は、選挙権の保障全体の考え方に関わります。

ただし、仮に最高裁が違憲と判断しても、ただちにすべての受刑者が次の選挙で投票できるようになるわけではない点には注意が必要です。 制度の見直しは国会の立法によることになり、刑事施設の中での投票の方法なども検討が必要になると考えられます。 反対に合憲とされた場合でも、東京高裁判決が付け加えているとおり、法律で受刑者の選挙権を制限しないこととするのは許されます。 [12]

また、規定が違憲かどうかと、国家賠償が認められるかどうかは別の問題です。 大阪高裁判決のように、違憲と判断しつつ賠償は認めなかった例もあります。

まとめ

本件は、受刑者の選挙権を一律に制限する規定について、最高裁大法廷が審理している事件です。 本件の一審・二審は合憲としましたが、下級審の判断は分かれています。 東京高裁と高松地裁は、同じ平成17年判決の枠組みに立ちながら、結論を分けています。

罪を犯して服役していることと、選挙に参加する資格とは結び付くのか。 最高裁がどのような判断枠組みを示すのかが注目されます。 判決が言い渡された段階で、改めて解説したいと思います。

文末注

  1. 最高裁判所「最高裁判所開廷期日情報」。 令和8(2026)年10月14日午後2時の大法廷弁論期日(令和6年(行ツ)第193号・同年(行ヒ)第230号 受刑者選挙権確認等)について参照。 資料を見る ↩
  2. 公職選挙法(昭和25年法律第100号)11条1項2号。 「拘禁刑以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」は選挙権及び被選挙権を有しないと定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
  3. 最高裁判所裁判官国民審査法(昭和22年法律第136号)4条。 「衆議院議員の選挙権を有する者は、審査権を有する」と定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
  4. 東京地方裁判所令和5年7月20日判決(令和4年(行ウ)第369号)。 原告の請求の内容(投票できる地位の確認及び国家賠償)について参照。 判決を見る ↩
  5. 最高裁判所「事案の概要」(令和6年(行ツ)第193号・同年(行ヒ)第230号)。 原審の判断と主要な争点について参照。 資料を見る ↩
  6. 最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号)・民集59巻7号2087頁。 選挙権の制限に「やむを得ないと認められる事由」を求めた判示について参照。 判決を見る ↩
  7. 東京地方裁判所令和5年7月20日判決(令和4年(行ウ)第369号)。 国会の裁量を認め、規定を合憲とした判断の理由について参照。 判決を見る ↩
  8. 東京高等裁判所令和6年3月13日判決(令和5年(行コ)第222号)・ウエストロー・ジャパン文献番号2024WLJPCA03136021。 平成17年判決の判断枠組みを前提に、一般の犯罪による受刑者も「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に含まれるとした判断について参照。 ↩
  9. 大阪高等裁判所平成25年9月27日判決(平成25年(行コ)第45号)。 選挙権の制限を違憲とし、国家賠償請求を棄却した判断について参照。 同判決は確定しています。 判決を見る ↩
  10. 高松地方裁判所令和8年3月31日判決(令和7年(行ウ)第10号)。 受刑者の選挙権の制限を違憲とした判断の枠組みと理由について参照。 判決を見る ↩
  11. KSB瀬戸内海放送「受刑者の選挙権制限を巡る裁判 違憲判決を受け高松市選管が最高裁に上告」(令和8(2026)年4月14日)。 高松地裁判決に対して上告がされたことについて参照。 なお、選挙人名簿の登録に関する訴訟の判決に対しては、控訴はできず、最高裁判所に上告することができるとされています(公職選挙法25条3項)。 資料を見る ↩
  12. 東京高等裁判所令和6年3月13日判決(令和5年(行コ)第222号)・ウエストロー・ジャパン文献番号2024WLJPCA03136021。 法律によって受刑者の選挙権を制限しないものとすることは許容されるとした補足部分について参照。 ↩