令和8(2026)年9月25日、東京地方裁判所は、18歳未満の人の選挙運動を禁じる公職選挙法(公選法)の規定が、憲法21条1項(表現の自由)に違反すると判断しました。 [1]
本件は、未成年者を含む4人が国を相手に、選挙運動ができる地位の確認(未成年の原告のみ)や、1人10万円の損害賠償を求めた事案です。 判決は規定を違憲としながら、確認の訴えを却下(門前払い)し、損害賠償の請求も棄却しました。
この記事のポイント
- 「一律禁止」は違憲: 18歳未満の人の選挙運動を全面的に禁じ、違反に刑罰を科す規定は、必要かつ合理的な規制とはいえないとされました。
- 「従事させることの禁止」は合憲: 18歳未満の人を選挙運動に従事させることを禁じる規定は、憲法に違反しないとされました。
- 規定は今も有効: 判決は確定しておらず、条文は今もそのままです。SNSでの投稿を含め、18歳未満の人の選挙運動は現在も禁止されています。
事件の背景
公選法137条の2第1項は「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない」と定めています。 また、同条2項は、18歳未満の人を選挙運動に従事させることを、選挙運動のための労務(作業の手伝い)を除いて禁じています。 [2]
違反すると1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象となり、刑が確定すると一定期間、選挙権・被選挙権が停止されます。 [3] インターネットを使った選挙運動も例外ではありません。 [4] これらの規定は昭和27(1952)年に設けられました(当時は20歳未満が対象)。
判決の認定によれば、原告らは未成年だったために、候補者を応援するブログ投稿を断念したり、候補者への手伝いを断られたりしていました。
裁判での争点
原告側は、選挙運動も表現の自由として保障されており、刑罰付きの一律禁止は強すぎる制約だと主張しました。
国側は、選挙制度は国会の広い裁量に委ねられており、選挙の公正と未成年者保護のための合理的な規制だと反論しました。
裁判所の判断
1. 未成年者にも選挙運動の自由がある
判決は、選挙権がないことだけを理由に、未成年者が「選挙運動の自由」の主体になり得ないとする根拠は見いだし難いとしました。
そして、一定の属性の人の選挙運動を例外なく禁じる規定は、制約の程度が「格段に強度」だとして、国が主張した緩やかな審査基準を採りませんでした。
2. 一律に禁じる必要性は高くない
判決は、規定の目的を「選挙の公正の確保」と「未成年者の保護」と認めました。 しかし、連呼(候補者名を繰り返し叫ぶこと)や人海戦術(大勢を動員する運動)の弊害は未成年者に限らず、公選法は既に詳細な規制を置いていると指摘しました。
未成年者の保護についても、高校などで主権者教育が広く行われていることなどから、選挙運動は社会的非難を受ける活動ではないとしています。 そして、スポーツや音楽活動と同様に、選挙運動に参加すること自体を禁止する「実質的根拠は見いだし難い」と述べました。
結論として、この規定は憲法21条1項に違反すると判断しました。 違反した未成年者を処罰する規定も違憲とし、保護の対象である未成年者を処罰することは「およそ合理性を欠く」と述べています。
3. 選挙運動に従事させることの禁止は合憲
他方、未成年者が親などの影響力のある人から、意に沿わない選挙運動をさせられるおそれは明らかだとして、同条2項は合憲としました。
4. 請求が退けられた理由
確認の訴えは、どの選挙で、どの候補者のために、どのような運動をするのかが具体化されていないとして、不適法とされました。
損害賠償も認められませんでした。 判決は、制定当時は未成年者の権利への意識が今ほど高くなかったこと、その後も合憲性を判断した裁判例がなかったことを挙げています。 そのため、違憲であることが国会にとって明白だったとまではいえないとしました。
この判決が生活に与える影響
判決は第一審のもので、本記事執筆時点で確定していません。 控訴されれば、東京高等裁判所で改めて審理されます。
地方裁判所の判決で違憲と判断されても、それによって法律の条文が削除されたり、一般的に効力を失ったりするわけではありません。 18歳未満の人が「○○候補に投票を」とSNSで呼びかけることは、現行法上は引き続き禁止の対象となり得ます。
また、判決は未成年者に関する規制をすべて否定したわけではありません。 未成年者を選挙運動に従事させることの禁止は合憲とされました。 候補者や陣営が未成年者を運動員として選挙運動に従事させられない点は、判決の考え方によっても変わりません。
まとめ
東京地裁は、18歳未満の人の選挙運動を一律に禁じ、刑罰で担保する規定を違憲と判断しました。 選挙権がないことや未成年者の保護だけでは、一律に禁止する根拠にならない、というのが判決の中心的な考え方です。
一方で、判決は確定しておらず、規定も現に存在しています。 控訴審の判断や国会での議論によって、この規定の扱いは変わり得ます。
文末注
- 東京地方裁判所民事第2部令和8(2026)年9月25日判決・令和7年(行ウ)第91号(未成年者選挙運動禁止規定違憲確認等請求事件)。 主文、原告らの経緯、公選法137条の2の制定経過、同条1項・2項の憲法適合性及び請求を退けた理由についての判断を参照。 ↩
- 公職選挙法(昭和25年法律第100号)137条の2。 1項は「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない」、2項は「何人も、年齢満十八年未満の者を使用して選挙運動をすることができない。ただし、選挙運動のための労務に使用する場合は、この限りでない」と定めています。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 公職選挙法239条1項1号及び252条。 137条の2に違反して選挙運動をした者に対する罰則と、選挙犯罪で刑に処せられた者の選挙権・被選挙権の停止について参照。 e-Gov法令検索を見る ↩
- 総務省「インターネットを使った選挙運動が出来るようになりました。」。 年齢満18歳未満の者は、インターネット選挙運動を含め、選挙運動をすることができない旨の記載について参照。 資料を見る ↩