弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

選択的夫婦別姓とは何か──民法750条と、最高裁が判断したこと・しなかったこと

令和8(2026)年8月2日


夫婦の姓をめぐる議論は長く続いていますが、 何が現行制度で、何を変えようという話なのかは、 必ずしも十分に知られていません。

一般に「選択的夫婦別姓」と呼ばれる制度は、 法律上は「選択的夫婦別氏制度」といいます。 ここでいう「氏」とは、戸籍に記載される法律上の姓のことです。 すべての夫婦を別姓にする制度ではなく、 同じ氏を望む夫婦は同じ氏を選び、 別々の氏を望む夫婦は、それぞれ婚姻前の氏を維持できるようにする制度です。 [1]

この記事では、民法の規定と最高裁判所の判断、 戸籍や子どもの氏、諸外国の制度を整理します。 旧姓の通称使用や国会の議論の現状は、別の記事で扱います。

この記事のポイント

  • 「別姓の強制」ではありません: 同じ氏を望む夫婦の選択を奪うものではなく、 別々の氏という選択肢を加える制度です。
  • 最高裁は現行制度を合憲と判断しています: ただし、どの制度を採用するかは、 国会で論じ、判断すべき事柄だとも述べています。
  • 戸籍や子どもの氏には制度設計が必要です: 過去の答申では、別氏夫婦を同一戸籍に在籍させる案や、 子どもの氏を婚姻時に定める案が具体的に示されています。

現行制度――どちらか一方は必ず氏を変える

民法750条は、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、 夫または妻の氏を称すると定めています。 婚姻前の氏が異なる二人が法律上の婚姻をする場合、 どちらか一方は必ず氏を変更しなければなりません。 [2]

法律の文言上は、夫の氏を選ぶことも、 妻の氏を選ぶこともできます。 したがって、女性に夫の氏を選ぶよう、 法律が直接義務付けているわけではありません。

もっとも、実際の選択には大きな偏りがあります。 内閣府が人口動態統計を基にまとめた資料によれば、 令和6(2024)年に婚姻した夫婦のうち、 94.1%が夫の氏を選びました。 したがって、令和6年に婚姻した夫婦の約94%では、 妻が婚姻に伴って氏を変更しています。 [3]

問題となっているのは、 夫婦が同じ氏を選ぶこと自体ではありません。 双方がそれぞれ婚姻前の氏を維持したいと希望する場合でも、 一方が氏を変更しなければ法律婚を成立させられない、という点です。

選択的夫婦別氏制度は、 夫婦同氏という現在の選択を残したまま、 双方が婚姻前の氏を維持して法律婚をするという選択も 認めようとするものです。

最高裁判所は何を判断したのか

最高裁判所大法廷は、民法750条について、 平成27(2015)年12月16日の判決で、 憲法13条、14条1項、24条1項及び2項に違反しないと判断しました。

同判決は、氏には個人を識別する機能だけでなく、 家族の呼称としての機能があること、 夫婦とその間の未婚の子が同じ氏を称することには 一定の意義があることなどを、 現行制度の合理性を支える事情として挙げています。

その一方で、氏を変更する人が アイデンティティーの喪失感を抱いたり、 婚姻前の氏で築いた信用、評価、名誉感情などに 影響を受けたりすることも認めています。

そして、婚姻前の氏を基礎として形成された信用や評価を 婚姻後も維持する利益について、 憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないものの、 婚姻及び家族に関する法制度を検討する際に考慮すべき 「人格的利益」であると位置付けました。 [4]

令和3(2021)年6月23日の大法廷決定も、 女性の有業率の上昇や国民意識の変化などを踏まえても、 平成27年判決を変更すべき事情があるとは認められないとして、 民法750条と、夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項とする 戸籍法74条1号は、憲法24条に違反しないと判断しました。 [5]

「合憲」は「改正は不要」という意味ではない

見落としてはならないのは、 最高裁が選択的夫婦別氏制度に合理性がないと 判断したわけではないという点です。

平成27年判決は、選択的夫婦別氏制度について、 「そのような制度に合理性がないと断ずるものではない」と明示しました。 そのうえで、夫婦の氏の在り方は、 社会の受け止め方や家族観なども踏まえ、 国会で論じ、判断すべき事柄だとしています。

令和3年決定も、 どのような制度を採ることが立法政策として相当かという問題と、 現行法の規定が憲法に違反して無効かという問題とは 「次元を異にする」と述べています。 [6]

つまり、最高裁が示したのは、 現行制度が憲法に違反して無効かどうかについての判断です。 現行制度と選択的夫婦別氏制度のどちらが 政策としてより望ましいかを、 最高裁が最終的に決めたものではありません。

なお、平成27年判決と令和3年決定には、 現行制度を違憲とする反対意見なども付されています。

戸籍や子どもの氏はどうなるのか

「夫婦が別々の氏になると、 同じ戸籍に入れないのではないか」という疑問もあります。

現行法では、原則として、 一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに戸籍が編製されます。 もっとも、選択的夫婦別氏制度を導入するための制度改正を行う場合、 夫婦別氏と同一戸籍を組み合わせる制度設計も可能です。

平成8(1996)年1月の民事行政審議会 (当時の法務大臣の諮問機関)の答申は、 別氏夫婦についても、同氏夫婦と同様に 一つの戸籍に在籍させる制度案を示していました。 [7]

子どもの氏についても、制度設計が必要です。 平成8年2月の法制審議会答申は、 夫婦が別氏を選ぶ場合には、 婚姻の際に、将来生まれる子どもが 夫または妻のどちらの氏を称するかをあらかじめ定め、 子どもが複数いる場合には全員が同じ氏を称するという案を示しています。 [8]

戸籍や子どもの氏は、 具体的な制度を設計する際に詰めるべき重要な課題です。 しかし、それ自体が選択的夫婦別氏制度を不可能にする理由ではありません。 どのような仕組みを採用するかを法律で定める問題です。

諸外国ではどうなっているのか

夫婦の氏に関する制度は国によって異なります。 夫婦が共通の氏を選ぶことができる国、 婚姻前の氏をそのまま法律上の氏とする国、 配偶者の氏を使用名として使うことができる国、 複数の氏を結合して使用できる国など、 さまざまな制度があります。

法務省は、平成22(2010)年の調査などを基に、 把握する限り、 婚姻後に夫婦のいずれか一方の氏を選択しなければならない制度を 採用している国は、日本だけであると説明しています。 [9]

各国の制度は、戸籍や身分登録の仕組み、 氏名に関する法制度、社会慣行などと結び付いています。 そのため、日本と諸外国を単純に比較することはできませんが、 夫婦や家族の氏について、 現行制度以外にも複数の制度設計があり得ることは確認できます。

まとめ

選択的夫婦別氏制度が導入されても、 同じ氏を望む夫婦は、 これまでどおり夫または妻の氏を選ぶことができます。

他方、双方が婚姻前の氏を維持したい場合、 現行制度では、どちらか一方が希望を変更して氏を改めるか、 法律婚をしないかを選ぶことになります。

「女性に夫の姓を変えることが法律で義務付けられている」 という説明は正確ではありません。 民法は、夫の氏と妻の氏のどちらも選べる仕組みだからです。

しかし、実際には約94%の夫婦が夫の氏を選んでおり、 婚姻に伴う改氏は主として女性側に生じています。

議論の中心にあるのは、 家族の呼称としての氏、戸籍制度、 子どもの氏や利益にも配慮しながら、 婚姻における氏の選び方を どこまで当事者に委ねるか、という問題なのだろうと思います。

最高裁が現行制度を合憲としたことは、 制度改正が不要という意味ではありません。 また、選択的夫婦別氏制度に賛成することが、 夫婦や家族が同じ氏を選ぶ価値を否定することにもなりません。

最高裁も、選択的夫婦別氏制度に合理性がないと判断したものではなく、 制度の在り方を国会の判断に委ねています。 最終的にどの制度を採るかは、 国会が立法政策として判断すべき問題です。

あわせて読みたい: 旧姓使用の法制化はどこまで進んだか──通称使用の限界と国会の動き(令和8年7月時点)

本記事は令和8(2026)年7月時点の情報に基づいています。 法令及び制度は今後変更される可能性があります。

文末注

  1. 法務省 「選択的夫婦別氏制度 (いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」。 選択的夫婦別氏制度の概要及び平成8年の制度案について参照。 資料を見る
  2. 民法750条。 「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、 夫又は妻の氏を称する」と定めています。 e-Gov法令検索を見る
  3. 内閣府男女共同参画局 「夫婦の姓(名字・氏)に関するデータ」。 令和6(2024)年に婚姻した48万5092組のうち、 45万6453組、94.1%が夫の氏を選択しています。 資料を見る
  4. 最高裁判所大法廷平成27(2015)年12月16日判決・ 民集69巻8号2586頁。 民法750条の憲法13条、14条1項及び24条適合性、 氏の家族の呼称としての機能並びに婚姻前の氏を基礎として 形成された信用等を維持する利益の位置付けについて参照。 判決を見る
  5. 最高裁判所大法廷令和3(2021)年6月23日決定・ 令和2年(ク)第102号。 社会状況及び国民意識の変化を踏まえても、 平成27年判決を変更すべき事情は認められないとした判断について参照。 決定を見る
  6. 前掲・最高裁判所大法廷平成27年12月16日判決及び 最高裁判所大法廷令和3年6月23日決定。 平成27年判決は、選択的夫婦別氏制度について 「合理性がないと断ずるものではない」とし、 令和3年決定は、立法政策上の当否と 現行制度の憲法適合性は「次元を異にする」としています。 平成27年判決を見る 令和3年決定を見る
  7. 法務省 「選択的夫婦別氏制度 (いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」。 平成8(1996)年1月の民事行政審議会答申では、 別氏夫婦も同氏夫婦と同様に 同一の戸籍に在籍させる制度案が示されました。 資料を見る
  8. 法制審議会 「民法の一部を改正する法律案要綱」 (平成8〈1996〉年2月26日答申)。 別氏夫婦について、婚姻時に子どもの氏を定め、 複数の子どもは同じ氏を称するとの制度案について参照。 答申を見る
  9. 法務省 「選択的夫婦別氏制度 (いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」。 諸外国の夫婦の氏に関する制度及び、 法務省が把握する限り、 婚姻後に夫婦の一方の氏を選択することを義務付けている国は 日本だけであるとの整理について参照。 資料を見る

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた 一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。 個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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