婚活アプリで既婚者が独身偽装。
貞操権侵害で慰謝料支払いを命じる判決
令和7(2025)年12月2日
「独身限定」をうたう婚活マッチングアプリで出会った男性が、実は既婚者だった――。
近年、アプリを通じた出会いが一般的になる一方で、プロフィールを偽った利用によるトラブルが増加しています。
令和7(2025)年12月1日、大阪地方裁判所において注目すべき判決が下されました。婚活アプリで独身と偽り女性と関係を持った男性に対し、「貞操権の侵害」を認めて慰謝料の支払いを命じたのです。
本記事では、判決の内容を解説するとともに、「貞操権侵害」とは具体的にどのような権利侵害なのか、また過去の裁判例における慰謝料の傾向について解説します。
今回の判決:婚活アプリでの独身偽装に55万円の賠償命令
まずは、今回の大阪地裁の判決(令和7(2025)年10月21日)の概要を見ていきましょう。
なお、判決の内容等については読売新聞令和7(2025)年12月1日付 「婚活アプリで「独身」とウソ、「貞操権を侵害」と交際男性に賠償命令…大阪地裁「女性に判断の機会失わせる行為」」に基づいています。
事案のポイントは以下の通りです。
- 事案:既婚男性が「独身限定」の婚活アプリに登録し、独身と偽って女性と交際・肉体関係を持った。
- 発覚:交際解消の約2年後、女性が男性のウェブサイトで子供の写真を見つけ、問い詰めたところ既婚の事実が発覚。
- 女性の主張:「既婚者と知っていれば関係を持たなかった。性的関係を持つ相手を自分で決める権利(貞操権)を侵害された」として提訴。
- 男性の主張:「デートもしておらず、性交渉だけの関係(自由な色恋の範疇)」と反論。
裁判所は、「相手が独身かどうかは、性的関係を伴う交際をするか判断する重要な情報である」とし、男性の行為は女性からその判断の機会を奪うものであり、貞操権の侵害にあたると認定しました。
その上で、結婚を前提とした関係ではなかったことなどを考慮し、55万円の慰謝料支払いを命じました。
【注意】被害者側が逆に訴えられるリスク
本件では、女性が被害をSNSの有名配信者を通じて公表したことに対し、男性側から「名誉毀損・プライバシー侵害」として反訴(逆提訴)が行われました。
その結果、裁判所は女性に対しても34万円の賠償を命じています。被害を受けたからといって、ネット上での暴露行為を行うことは法的リスクを伴うため注意が必要です。
「貞操権侵害」とは何か?
今回認められた「貞操権(ていそうけん)」とは、古い言葉のように聞こえるかもしれませんが、「性的自己決定権」の一種として捉えられています。
簡単に言えば、「誰といつ、どのような状況で性的関係を持つかを、正しい情報に基づいて自分で決める権利」のことです。
もし相手が「独身だ」と嘘をついていなければ、あなたは性的関係を持つことを拒否していたかもしれません。このように、重要な事実(婚姻の有無など)を偽って相手を誤信させ、関係を持たせる行為は、相手の「(性的事項につき)正しい判断をする権利」を奪う不法行為となり得ます。
過去の裁判例から見る慰謝料の傾向
独身と偽った交際に関するトラブルは過去にも多くの裁判例があります。状況によって慰謝料の金額や判断は大きく異なります。いくつかの例を見てみましょう。
1. 結婚への期待を持たせた悪質なケース(慰謝料300万円)
東京地判令和5年10月27日
【概要】
約6年8ヶ月もの長期間にわたり、結婚を視野に入れて交際していた事例。この間、女性は32歳から39歳になり、出産・育児にとって重要な期間を費やしました。
【判決】
裁判所は「失われた時間を取り戻すことは不可能」として、極めて大きな精神的苦痛を認め、300万円の高額な慰謝料を認めました(※被告欠席による判決)。
2. 短期間・回数が少ないケース(慰謝料50万円)
東京地判令和5年8月17日
【概要】
独身限定パーティーで出会い、交際期間は約2ヶ月、肉体関係は6回程度だった事例。
【判決】
今回の大阪地裁のケースに近い事案です。期間が短くても、独身限定の場を利用して意図的に騙した点などから不法行為が成立し、50万円の慰謝料が認められました。
3. 貞操権侵害は否定されたが、別の違法性が認められたケース
大阪地判令和6年7月19日
【概要】
独身と嘘をついて関係を持ったものの、結婚を前提とした交際ではなかった事例。
【判決】
裁判所は「独身と偽ったことは不誠実だが、直ちに不法行為とは言えない」として貞操権侵害そのものは否定的な判断を示しました。
しかし、「避妊の求めを無視して性行為を続けた点」について、女性の性的自己決定権を侵害したとして、別途60万円の慰謝料を認めました。
まとめ:被害に遭った場合とリスク回避
今回の判決により、結婚の約束がない(いわゆる婚活目的ではない)アプリ上の出会いであっても、「独身限定」というルールを悪用した嘘については法的責任を問える可能性が示されました。
しかし、裁判になれば時間も費用もかかります。アプリを利用する際は、以下の点に注意しましょう。
-
独身証明機能のあるアプリを選ぶ:
近年はマイナンバーカード等で独身確認を行うアプリも増えています。 -
怪しいと感じたら確認する:
休日に連絡が取れない、自宅を教えてくれない等の兆候には注意が必要です。 -
SNSでの暴露は控える:
正当な怒りがあっても、ネット上での告発は名誉毀損として逆に訴えられるリスクがあります。まずは専門家へ相談しましょう。
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
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