弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

最高裁は「合憲」と判断したのか|外国人の生活保護をめぐる令和8年9月9日決定

令和8(2026)年9月15日


令和8(2026)年9月9日、最高裁判所第二小法廷は、日本に在留する外国人の男性が生活保護の申請を却下されたことを争っていた裁判について、上告を棄却する決定をしました。これにより、男性の敗訴が確定しました。

本件は、ガーナ共和国の国籍を持つ男性(以下「Aさん」といいます)が、末期の慢性腎不全のため週3回の人工透析を受けながら、千葉市に生活保護を申請したところ却下された、という事案です。Aさんは法務大臣から在留特別許可を受け、療養のための「特定活動」の在留資格で在留していますが、この在留資格では、収入を伴う事業や報酬を受ける活動が禁じられています。

もっとも、この決定を「外国人を生活保護の対象としないことを最高裁が合憲と判断した」と読むのは正確ではありません。多数意見は憲法の問題に立ち入っておらず、他方で、裁判長を務めた三浦守裁判官は、憲法に違反するとする反対意見を書いています。

この記事のポイント

  • 判決ではなく「決定」です: 多数意見は、上告できる場合を定めた民事訴訟法の要件に当たらないと述べただけで、生活保護法が外国人を対象としないことの憲法適合性は判断していません。
  • 裁判長が「違憲」とする反対意見を書きました: 4人の裁判官のうち1人、それも裁判長が、少なくとも難民などと認定された人と療養のために在留する人を対象から外す部分は憲法25条・14条1項に違反して無効である、と述べています。
  • 外国人の受給資格が認められたわけではない点に注意: 今回確定したのは敗訴という結論であり、むしろ、現在の運用から外れた人が裁判で救済を求める道は閉ざされました。問題は国会での立法に移っています。

事件の背景

法律の文言と、70年以上続く「事実上の運用」

生活保護法1条は「生活に困窮するすべての国民」を対象とすると定め、2条も「すべて国民は」保護を無差別平等に受けることができると定めています。 [1] この「国民」に外国人が含まれるかどうかが、長く争われてきました。

一方で、現実には、一定の範囲の外国人に対し、日本国民と同じ基準で生活保護に相当する給付が行われています。根拠とされているのは、昭和29(1954)年の「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という厚生省(当時)社会局長の通知です。外国人は生活保護法の適用対象とならないとしたうえで、当分の間、日本国民に対する取扱いに準じて必要と認める保護を行い、内容に差等をつけるべきではない、とするものです。法律ではなく通知に基づく取扱いであり、この運用が70年以上続いてきました。 [2]

Aさんの申請と、2つの理由による却下

Aさんは、平成27(2015)年2月に「留学」の在留資格で来日し、その後「技術・人文知識・国際業務」の在留資格への切替えを得て働いていましたが、平成30(2018)年頃に体調を崩して勤務先を解雇され、在留資格を失うなどした時期を経ています。平成31(2019)年3月頃には末期の慢性腎不全に進行し、同じ頃から人工透析が始まりました。令和2(2020)年には在留特別許可を得て「特定活動」の在留資格が付与され、千葉県から身体障害者手帳(じん臓機能障害1級)の交付を受けています。 [3]

令和3(2021)年11月18日、Aさんは千葉市に生活保護を申請しました。市は同年12月1日、これを却下します。生活保護法に基づく申請についてはAさんが同法にいう「国民」に当たらないこと、昭和29年通知を踏まえた行政措置としての保護についてはAさんの在留資格では要件に当たらないこと、という2つの理由によるものでした。 [4]

裁判で争われたこと

Aさんは、考えられる法律構成をほぼ網羅して争いました。生活保護法の「国民」に外国人も含まれるという主張。通知に基づく行政措置としての却下を行政処分として取り消せるかという問題(「処分性」と呼ばれる論点で、これが認められなければ取消しの訴え自体ができません)。行政措置としての保護を自治体との契約と捉える構成。そして、外国人を対象から外すこと自体が憲法25条(生存権)や14条1項(法の下の平等)に違反するのではないか、という主張です。

一審・控訴審の判断

一審の千葉地方裁判所は、令和6(2024)年1月16日、Aさんの請求を退けました。生活保護法の「国民」は日本国民を意味し、外国人は含まれない。この解釈は、最高裁が平成26(2014)年7月18日の判決で示したものです。 [5] 憲法25条については、どのような立法措置をとるかは立法府の広い裁量に委ねられるから、外国人を生活保護の対象に含めるかどうかについても立法府の裁量の範囲に属することが明らかである、と述べています。

だだし、この説示では、外国人が憲法25条の権利の主体になり得るのかという問いを立てないまま、直ちに立法裁量の問題として処理されています。後に述べる反対意見は、まさにこの点を突いています。

控訴審の東京高等裁判所も、令和6(2024)年8月6日、控訴を棄却しました。 [6] 国民健康保険法などの社会保障に関する法律が外国人住民を対象としているというAさんの主張については、一定の範囲の社会保障給付が外国人住民を対象とすることをもって、生活保護法の対象に外国人住民が含まれると解することはできない、としています。

平等の問題についても、突っ込んだ検討はしていません。外国人の間に存する経済的・社会的その他さまざまな事実関係上の差異を理由として取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り平等原則等に違反するものではなく、生活保護法や昭和29年通知に基づく保護の対象からどの範囲の外国人を除くかは立法府の裁量に属する事柄である、と述べるにとどめました。

最高裁の判断──「決定」であることの意味

上告できる場合は法律で限られている

ここが本件を理解する要になります。民事事件で最高裁に上告できるのは、民事訴訟法312条1項・2項が定める場合、すなわち判決に憲法の違反があるときと、判決裁判所の構成の誤りなど手続上の重大な誤りがあるときに限られます。 [7] 上告の理由がこれらに当たらないと判断すれば、最高裁は中身に立ち入らないまま上告を棄却できます。今回の裁判が「判決」ではなく「決定」であるのは、このためです。

多数意見が述べたのは、本件上告の理由は明らかに312条1項・2項の事由に当たらない、ということに尽きます。控訴審の結論が正しいかどうかも、生活保護法をどう解釈すべきかも、外国人を対象から外すことが憲法に反するかどうかも、判断していません。 [8]

本件の上告理由は、まさに憲法25条・14条1項の違反を述べるものでした。それでも第二小法廷の決定で処理されたことは、多数意見が憲法適合性に踏み込んでいないこととよく整合します。

裁判長の反対意見──「著しく人道に反する」

決定には、裁判長である三浦守裁判官の反対意見が付されています。控訴審判決を破棄して差し戻すべきだとするものです。

まず、多数意見の位置づけを自ら明示します。多数意見は、生活保護法が外国人を生活保護の対象としないことが憲法に違反するか否かについて判断しておらず、これを合憲と判断するものでもない、というのです。


そのうえで、判断の枠組みを組み替えます。憲法25条にいう権利は、人間の生存と尊厳という最も重要かつ普遍的な価値を基礎としており、その価値は国籍によって左右されない。だから、権利の性質上、日本国民のみをその対象としているとはいえない。そうであれば、保護の対象者を日本国民に限って外国人を除外することの憲法適合性は、権利の内容を具体化する裁量の問題ではなく、すでに具体化された権利の主体の要件について、日本国民と外国人を区別して外国人の権利を否定することの合理性の問題である、とします。


組み替えると、話の運びが変わります。「立法府の広い裁量」の一言で終わらせるのではなく、除外に合理的な根拠があるのかを類型ごとに検討することになるからです。

現に、反対意見はその検討をしています。難民や補完的保護対象者と認定された人については、国籍のある国で生命や自由が脅かされ、帰国して保護を受けることが困難であるから、日本国民と異なる法律上の取扱いをすべき合理的な根拠はないとします。療養のために在留する外国人についても、必要な保護を否定することは、その生存に危険を生じさせるものであって、著しく人道に反し、個人の尊厳をないがしろにするものだ、と述べています。


結論は、生活保護法1条・2条が保護の対象を「国民」と定める部分のうち、少なくとも、難民や補完的保護対象者と認定された外国人と、療養のために在留する外国人を除外する部分は、憲法25条及び14条1項に違反して無効である、というものです。なお「少なくとも」というのは本件の判断に必要な範囲で述べる趣旨であって、その他の外国人を除外することが合憲であることを意味しない、とも付け加えています。


立法についても踏み込んでいます。70年以上にわたり、生活に困窮する一定の外国人について日本国民と同等の保護が事実上実施されていることは、憲法25条の基礎にある人間の生存と尊厳に関わる重い現実である。それにもかかわらず、国会が法律上の制度を定めることを怠り、地方公共団体の裁量に委ねていることは、国として、外国人の生存と尊厳をおろそかにするものといわざるを得ない。結びは、基本的人権の保障については、最高法規である憲法の下に、関連する条約を誠実に遵守するとともに、適切な法秩序が形成されなければならない、というものです。

補足意見は、憲法には触れていない

高須順一裁判官の補足意見も付いていますが、こちらは憲法適合性に触れていません。指摘するのは、地方公共団体が昭和29年通知に基づいて一定の外国人に日本国籍を有する者と同様の基準で支給しているという事実と、昭和56(1981)年に難民条約などへ加入したことを契機に国民年金法ほかの社会保障関係国内法の国籍要件が撤廃される一方、生活保護法については通知に基づく支給が行われていることが考慮され、法改正の必要が生じなかったという経緯です。

そのうえで、外国人に関する生活保護の支給の在り方を議論する際には、これらの事実及び経緯を踏まえる必要があると結んでいます。

まとめ

今回の決定は、結論だけを見れば「外国人の敗訴が確定した」というものです。しかし最高裁がしたのは、上告の理由が法律の定める要件に当たらないと述べて手続を終えたことであり、外国人を生活保護の対象から外すことが憲法に反するかどうかは、なお正面から判断されたことのない問題として残っています。

文末注

  1. 生活保護法(昭和25(1950)年法律第144号)1条・2条。保護の対象が「国民」と定められていることについて参照。 e-Gov法令検索を見る ↩
  2. 「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知)。一定の外国人に対する行政措置としての保護の根拠とされているものとして参照。本記事では、後記4及び6の各判決に引用され、その文言が示されている限りで記載しています。 ↩
  3. 東京高等裁判所 令和6(2024)年8月6日判決(令和6年(行コ)第34号、同第129号・生活保護開始決定義務付け請求控訴事件)。Aさんの在留と治療の経緯について、同判決が一審判決の前提事実を補正した部分を参照。 ↩
  4. 千葉地方裁判所 令和6(2024)年1月16日判決(令和3年(行ウ)第59号・生活保護開始決定義務付け請求事件)。申請から却下に至る経過及び却下の理由、並びに一審の判断について参照。 ↩
  5. 最高裁判所第二小法廷 平成26(2014)年7月18日判決(平成24年(行ヒ)第45号)・訟務月報61巻2号356頁。生活保護法にいう「国民」に外国人が含まれないとの解釈について、一審判決及び後記8の決定の反対意見が言及しているものとして参照。 ↩
  6. 前記3の判決。控訴審の判断について参照。 ↩
  7. 民事訴訟法312条1項・2項。最高裁判所に上告をすることができる場合が限られていることについて参照。 e-Gov法令検索を見る ↩
  8. 最高裁判所第二小法廷 令和8(2026)年9月9日決定(令和6年(行ツ)第372号・生活保護開始決定義務付け請求事件、裁判所ウェブサイト掲載)。多数意見の理由、三浦守裁判官の反対意見及び高須順一裁判官の補足意見について参照。 判決を見る ↩
  9. 裁判所法9条。最高裁判所が大法廷(全員の裁判官の合議体)と小法廷(最高裁判所の定める員数の裁判官の合議体)で審理及び裁判をすることについて参照。 e-Gov法令検索を見る ↩

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

この記事は参考になりましたか?

0