改正公益通報者保護法は令和8年12月1日施行|通報した人の保護はどう変わる?
令和8(2026)年8月19日
公益通報者保護法を改正する法律(令和7年法律第62号)が令和7(2025)年6月11日に公布され、令和8(2026)年12月1日から施行されます。 [1] 勤務先の法令違反を通報した人を、解雇その他の不利益な扱いから守るための法律の改正です。
消費者庁が公表した改正の概要では、改正事項が「体制整備の徹底と実効性の向上」「公益通報者の範囲拡大」「公益通報を阻害する要因への対処」「不利益な取扱いの抑止・救済の強化」の4つに整理されています。 [2] 窓口が置かれているかどうかよりも、通報しようとする人が実際に妨げられないか、通報した後に守られるかへ重心が移った改正だといえます。
この記事のポイント
- 通報後1年以内の解雇・懲戒は「通報が理由」と推定されます: 解雇と通報との結びつきを、通報した人の側で示さなければならない場面が減ります。
- 通報させない約束は無効となり、通報者探しも禁止されます: 通報を理由とする解雇・懲戒には6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が、法人には3,000万円以下の罰金が定められました。
- フリーランスも対象に。ただし、どんな内部告発でも守られるわけではない点に注意が必要です: 保護されるのは、法律の定める一定の法令違反について、定められた要件を満たして通報した場合に限られます。
改正の背景
窓口が置かれていても、通報すれば誰が言い出したのか突き止められるのではないか、後から別の理由をつけて処分されるのではないか、という不安が残れば通報はされません。改正が「公益通報を阻害する要因への対処」と「不利益な取扱いの抑止・救済の強化」を柱に据えたのは、この不安を解消するところにあるといえるでしょう。
改正の主な内容
1. 通報を妨げる行為の禁止
事業者は、正当な理由がないのに、公益通報をしない旨の合意をすることを求めたり、通報した場合に不利益な取扱いをすると告げたりして、通報を妨げてはならないこととされました。これに違反してされた合意その他の法律行為は、無効となります。 [3]
退職するときの誓約書や紛争解決時の示談書に入る秘密保持・口外禁止の条項が、公益通報までまとめて禁じる内容になっていないかは、確かめておいたほうがよい点です。
2. 通報者を探す行為の禁止
正当な理由がないのに、公益通報者である旨を明らかにするよう要求することや、通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます。 [4]
もっとも、通報された事実を調べるには、関係者への聞き取りや記録の確認が避けられないこともあります。調査に必要な事実確認と通報者探しそのものとは区別されますが、その線引きは個別の事情によります。
3. 通報後1年以内の解雇・懲戒は「通報が理由」と推定
公益通報をした日から1年以内にされた解雇又は懲戒は、その通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。 [5] 推定されるとは、反対の事情が示されない限りそのように扱われる、という意味です。
これまでは、解雇又は懲戒と通報との結びつきを、通報した人の側で示す必要がありましたが、改正後は、正当な理由があったことを事業者の側が示すことになります。あわせて、公益通報を理由とする解雇・懲戒には、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金が定められました。 [6]
4. フリーランスも保護の対象に
保護される人の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランスと、業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが加わります。 [7] 通報を理由とするものであれば、業務委託契約の解除、発注量の削減、報酬の減額といった扱いも不利益な取扱いになり得ます。
いつから・誰に適用されるか
施行日は令和8(2026)年12月1日です。公布はされていますが、施行はまだ先ですので、ここまでに述べた規定が現時点で効力を有するのは施行日以降です。
なお、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者には、通報に対応する体制の整備が義務付けられています(300人以下の事業者については努力義務)。
今回、この義務について、内閣総理大臣が勧告・命令をし、従わないときに公表できる仕組みと、報告を求め立入検査をする仕組みが設けられました。報告をしない場合等には30万円以下の罰金が定められています。
[8]
私たちの生活への影響
たとえば、退職するときに、「在職中に知ったことを一切外部に漏らさない」という誓約書への署名を求められることがあります。改正後は、このような誓約書によって公益通報まで禁止することはできません。公益通報をしないという合意は、その部分について無効になります。
したがって、その場では署名を断りにくかったとしても、署名したという理由だけで、法律上認められた公益通報までできなくなるわけではありません。
また、保護される人の範囲には、会社員だけでなく、企業から仕事を請け負うフリーランスも加わります。フリーランスが取引先の不正を公益通報したことを理由に、契約を解除されたり、仕事を減らされたり、報酬を引き下げられたりした場合には、法律による保護を求められる可能性があります。
もっとも、「内部告発」であれば、どのようなものでも保護されるわけではありません。保護の対象となるのは、法律が定める一定の法令違反についての通報です。また、勤務先の内部窓口、行政機関、報道機関など、どこに通報するかによって、保護を受けるための条件が異なります。 [9]
まとめ
今回の改正によって、公益通報を理由とする解雇や懲戒に対し、通報者が保護を求めやすくなります。特に、通報後1年以内の解雇・懲戒は通報を理由としたものと推定されることと、公益通報をしないという合意が無効になることは、実際に紛争となった場合に重要な意味を持ちます。
施行前であっても、退職時の誓約書や示談書への署名を求められたときは、正当な公益通報まで禁止する内容になっていないか、署名前に確認することが大切です。
文末注
- 消費者庁「公益通報者保護制度」。改正法の法律番号(令和7年法律第62号)、公布日(令和7年6月11日)及び施行日(令和8年12月1日)について参照。 資料を見る ↩
- 消費者庁「改正概要(公益通報者保護法、法定指針)」。改正事項が4つの柱に整理されていることについて参照。 資料を見る ↩
- 消費者庁「公益通報者保護法の一部を改正する法律 要綱」。公益通報を妨げる行為の禁止及び違反してされた合意その他の法律行為が無効となることについて参照。 資料を見る ↩
- 前掲・要綱。公益通報者である旨を明らかにすることの要求その他公益通報者を特定することを目的とする行為の禁止について参照。 資料を見る ↩
- 前掲・要綱。公益通報をした日から1年以内にされた解雇等を公益通報を理由とするものと推定する規定について参照。 資料を見る ↩
- 前掲・改正概要。公益通報を理由とする解雇・懲戒に対する6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金及び法人に対する3,000万円以下の罰金について参照。 資料を見る ↩
- 前掲・改正概要。業務委託関係にあるフリーランス及び業務委託関係が終了して1年以内のフリーランスが公益通報者の範囲に加わることについて参照。 資料を見る ↩
- 前掲・要綱及び改正概要。常時使用する労働者の数が300人を超える事業者の体制整備義務並びに勧告・命令・公表、報告徴収・立入検査及び罰則について参照。 資料を見る ↩
- 消費者庁「公益通報者保護制度」。公益通報として保護されるための要件及び通報先の区分について参照。 資料を見る ↩
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
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