弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

メーカーの販売価格指定はどこまで許されるか|流通・取引慣行ガイドライン改正

令和8(2026)年7月27日


公正取引委員会は令和8(2026)年7月8日、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(流通・取引慣行ガイドライン)を改正しました。法律の改正ではなく、独占禁止法をどのように運用するかについての公正取引委員会の考え方を示した指針の改正です。

メーカーが、自社の商品を仕入れた小売業者などに販売価格を指示し、その価格を守らせる行為は、再販売価格維持行為(販売価格の拘束)と呼ばれ、独占禁止法上、原則として違法とされています。今回の改正は、その例外として、流通業者が「単なる取次ぎ」として機能し、実質的にメーカー自身が販売していると認められる場合について、判断の考え方と具体例を追加したものです。契約書の名称が「売買」か「委託販売」かではなく、返品、在庫、代金回収などの負担を実際に誰が負っているかが問われます。

この記事のポイント

  • 原則は禁止のままです: 流通業者の販売価格を拘束する行為は、原則として不公正な取引方法に当たり違法です(独占禁止法2条9項4号、19条)。今回の改正でこの原則が緩和されたわけではありません。
  • 危険と費用の負担が判断の軸です: 売れ残り、契約不適合、滅失・毀損、代金回収不能の危険と、在庫保管費用や輸送費用などをメーカーが自ら負担し、実質的にメーカー自身がユーザーに販売していると認められる場合には、価格の指示は違法とはならないとされました。
  • 費用につき一部であっても流通業者に負担させることはできません: 協議による合意の結果であっても、ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用を流通業者に一部でも負担させる場合には、メーカーがその費用を負担したことにはなりません。

改正の背景

指針は従来から、直接の取引先が「単なる取次ぎ」として機能しており、実質的にみてメーカー自身が販売していると認められる場合には、価格を指示しても通常は違法とならないとしていました(第1部第1の2(7))。挙げられていたのは、委託販売の場合と、メーカーと小売業者またはユーザーとの間で直接価格を交渉して納入価格を決定し、卸売業者が、その価格で納入するとともに物流や代金回収を担って手数料を受け取る場合の2類型です。

もっとも、売買の形式を採りながらメーカーが危険と費用を負担する取引の扱いは、従前の記載だけでは判断しにくいところがありました。近年は「指定価格制度」と呼ばれる販売施策もみられますが、これは法令上定義された用語ではありません。公正取引委員会は令和8(2026)年5月13日に改正案を公表し、19件の意見を検討したうえで、原案を一部変更して改正しました。

改正の主な内容

1 危険と費用を自ら負担する場合

新たに加えられた第1部第1の2(7)③は、流通業者に商品を販売する場合であっても、メーカーが、流通業者においてユーザー(=商品を最終的に使用する者。一般消費者を含みます)への販売に至るまでに生じる危険及び費用を自ら負担することにより、実質的にみてメーカーがユーザーに販売していると認められる場合を挙げています。

もっとも、危険や費用を負担していればそれだけで足りるわけではなく、流通業者が単なる取次ぎとして機能しているといえるかは、取引の実態に応じて判断されます。

2 対象となる危険と費用

どこまでの危険と費用を負担すべきかは、個別具体的な事案に即して判断されます。改正後の指針は、通常、次のものが含まれるとしています。

  • 売れ残った場合の危険
  • 契約不適合があった場合の危険
  • 在庫保管についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合の危険
  • 代金回収が不能となった場合の危険
  • 在庫保管費用、輸送費用、広告宣伝費用その他のユーザーへの販売に至るまでに生じる費用

あわせて公表されたQ&Aは、これらのほか、販売価格を指示しようとする商品の販売のために要する荷造費用、見本費用、人件費、研修費用、保険料など、取引の内容によって様々なものが考えられるとしています。逆に、流通業者が保管の注意義務を怠ったことに起因する損害まで、メーカーが負担する必要はありません。

3 協議による費用の確認

費用の実態をメーカーがあらかじめ網羅的に把握することは難しい場合があります。そこで改正後の指針は、メーカーが流通業者に対し、次の事項をあらかじめ明示する方法を示しました。

  • ユーザーへの販売に至るまでに生じる費用をメーカーが負担すること
  • 費用の項目及びその負担方法
  • 費用の項目に不足があるなどとして協議を希望する場合には、その旨を申し出ることができること

そのうえで、申出のあった内容について協議し、一連の過程で確認された費用をメーカーが負担したときは、通常、費用を負担したものと考えられます。もっとも、合意の結果であっても、費用の一部を流通業者に負担させるのであれば、メーカーが負担したことにはなりません。Q&Aも、どのような費用が生じるかを双方で確認し、その内容と負担方法を明確にしておくことが肝要だとしています。

いつから・誰に関係するか

本指針は令和8(2026)年7月8日付で改正されました。法律の改正ではないため、法令上の施行日は設けられていません。この日を境に前後の取引で適法・違法が一律に分かれるわけでもなく、独占禁止法2条9項4号及び19条の運用についての考え方を、判断要素と具体例を加えて明確にしたものです。

主に関係するのは、メーカー、卸売業者、小売業者及びEC事業者です。卸売業者が介在する取引で、メーカーが小売価格だけでなく卸売価格についても指示する場合には、卸売業者に生じる危険及び費用も負担する必要があるとされています。

実務への影響

確認すべきは契約書の名称ではありません。取引基本契約、覚書、返品規程、費用負担の合意と実際の運用を照らし合わせ、次の点を押さえておく必要があります。

  • 売れ残った商品を返品できるか、返品費用と返金を誰が負うか
  • 契約不適合があった場合の責任を誰が負うか
  • 保管中の滅失・毀損、代金回収不能の危険を誰が負うか
  • 保管、配送、広告宣伝その他の費用を誰が負担しているか

改正後の指針に加えられた具体例(令和6年度相談事例集)では、取引先事業者が、納品日から一般消費者等への販売までの間、いつでも自らの判断で返品でき、メーカーが返品費用を負担して代金相当額を返金すること、契約不適合及び善管注意義務違反によらない在庫管理上の危険を原則としてメーカーが負担すること、現金やクレジットカードによる決済が用いられるなど、取引先事業者が実質的に代金回収不能の危険を負わないことが前提とされていました。さらに、メーカーは、販売に至るまでに生じる費用を負担すること、その項目及び負担方法を明示し、取引先事業者から申出があれば協議して、その過程で確認された費用を負担することとしていました。こうした条件の下で、取引先事業者は単なる取次ぎとして機能しているとして、独占禁止法上問題となるものではないと回答されています。

もっとも、あらゆる価格指定が認められるわけではありません。希望小売価格を単なる参考として示すこと自体は通常問題となりませんが、指定価格を守らない販売店への出荷停止やリベートの削減などによって価格を守らせれば、原則に戻って違法と評価されます。

まとめ

今回の改正によって、再販売価格維持行為を原則として禁止するという基本的な考え方が緩和されたわけではありません。公正取引委員会も、今回示した考え方は委託販売についての従来の考え方と基本的に相違しないと説明しています。

他方で、形式上は売買であっても、メーカーがユーザーへの販売に至るまでの危険と費用を自ら負担し、流通業者が単なる取次ぎとして機能している場合には、価格の指示が通常違法とならないことが明確になりました。指定価格制度の導入を検討している場合には、契約書や覚書と実際の運用を突き合わせ、ユーザーへの販売に至るまでにメーカーが負担すべき危険と費用を、実際にメーカーが負担する仕組みになっているかを確かめておくことが望ましいといえるでしょう。

出典・参照資料

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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