弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

金型の無償保管に公取委が勧告──取適法(旧下請法)で企業に求められる対応

令和8(2026)年7月11日


令和8(2026)年7月8日、公正取引委員会は、給湯器等を製造販売する株式会社ノーリツに対し、取引先に金型を無償で保管させていたとして勧告を行いました。公表資料「株式会社ノーリツに対する勧告について」によれば、同社は、遅くとも令和5(2023)年6月以降、部品の発注を長期間行っていないにもかかわらず、取引先41社に計5,242型の金型を保管させ、その費用を負担していませんでした。

この勧告で求められたのは、保管料の支払だけではありません。取締役会の決議による確認や、役員・発注担当者への研修など、経営レベルの改善措置にまで及んでいます。本記事では、この事例を題材に、金型や治具(じぐ。加工を補助する器具)等の無償保管における法的リスクと、実務上求められる対応を解説します。

この記事のポイント

  • 無償保管に勧告: 公正取引委員会は、長期間発注のない金型を取引先に無償で保管させた行為を「不当な経済上の利益の提供要請」(改正前の下請法4条2項3号)に当たると認定しました。
  • 取適法でも同様に規制: 令和8(2026)年1月1日以降になされた製造委託等には、下請法を改正・改称した中小受託取引適正化法(取適法)が適用され、同様の行為は取適法5条2項2号の禁止行為に該当し得ます。
  • 「了解があれば適法」ではない点に注意: 取引先が保管を了解していた場合や、金型の所有権が取引先側にある場合でも、違反と判断される可能性があります。

ノーリツに対する勧告の内容

公正取引委員会の公表資料および勧告書によれば、ノーリツは、部品の製造を委託した取引先41社に自社所有の金型を貸与していました。そして、遅くとも令和5(2023)年6月以降、その金型を用いて製造する部品の発注を長期間行わないにもかかわらず、計5,242型の金型の保管費用を負担することなく、取引先に保管させていました。

公正取引委員会は、この行為が改正前の下請法4条2項3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)に違反すると認定し、勧告を行いました。なお、同社は保管費用の支払手続を進めていると公表されています。

特に注目すべきは、勧告の内容が保管料の支払にとどまらない点です。勧告書の主文では、次の措置が求められています。

  • 保管費用に相当する額を、公正取引委員会の確認を得た上で速やかに支払うこと
  • 違反行為に該当することと、今後同様の行為を行わないことを、取締役会の決議により確認すること
  • 役員・発注担当者に対する取適法の研修の実施など、社内体制の整備
  • 勧告を受けたことや講じた措置の、役員・従業員への周知徹底と、取引先への通知
  • 講じた措置の公正取引委員会への報告

つまり本件は、発注管理や契約管理の不備にとどまらず、企業統治(ガバナンス)に関わる問題として扱われているのです。

適用される法律──下請法から取適法へ

本件で適用されたのは、改正前の下請代金支払遅延等防止法(下請法)です。下請法は令和7(2025)年の改正により、令和8(2026)年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に改称されました。

新旧の法律の適用は、発注の時期で区別されます。令和7(2025)年12月までになされた製造委託等(発注)には改正前の下請法が、令和8(2026)年1月1日以降になされた製造委託等には取適法が適用されます。

取適法5条2項2号は、委託事業者(発注者)が自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、中小受託事業者(受注者)の利益を不当に害することを禁止しています。長期間発注のない金型等を無償で保管させる行為は、改正前の下請法と同様、この規定に該当し得ると考えられます。

「了解があるから適法」とはならない判断基準

金型の保管には、倉庫スペースの占有だけでなく、棚卸し、錆止め、修繕、火災や盗難への対策、廃棄判断が保留されることによる管理負担など、多大な費用と労力が生じます。

発注が長期間途絶え、次回の発注時期も再使用の見込みも示せない状況で、発注者側の都合により保管を継続させる場合、形式上は取引先が合意していたとしても、直ちに適法と判断されるわけではありません。取引先の了解があることや、発注者側に違法性の認識がないことだけでは、違反の評価を免れないと考えられているためです。

実質的には、保管の必要性、具体的な保管期間、適切な費用負担とその算定根拠、受注者側に生じる直接的な利益などを確認・精査することが必要です。

対象は金型だけではない──全社的な点検の必要性

この問題は、金型を多く使用する特定の製造業に限られません。木型、治具、検具(検査用の器具)、専用工具、製造設備などを取引先に置いたままにしている取引でも、同様の検討とリスク評価が必要です。

また、これらの所有権が発注者側にある場合だけでなく、取引先側が所有している場合であっても、発注者がその廃棄や転用の可否を事実上左右しているときは、同様に規制の対象となり得るため注意を要します。

さらに、取適法では、従来の資本金基準に加えて従業員数基準が導入されました(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人が基準。資本金基準が適用されない場合に適用されます)。これにより、従来は「下請法の対象外」と整理していた取引が、取適法の対象となる可能性があります。購買部門だけの判断に頼らず、法務・経理・製造などの関係部門が連携して、取引の対象性を再確認する体制が重要です。

よくある質問

取引先が金型の無償保管を了解していても、違法となる可能性がありますか?

はい、あります。取適法上の禁止行為は、受注者の了解や、発注者側に違法性の認識がないことだけで回避できるものではありません。保管の必要性、期間、費用負担、算定根拠、受注者側の直接的利益を実質的に確認する必要があります。

金型以外の物品でも、無償保管が問題になることがありますか?

はい、あります。木型、治具、検具、専用工具、製造設備などを取引先に置いたままにする取引でも、同様の検討が必要です。所有権が発注者にある場合だけでなく、取引先が所有していても、発注者が廃棄や利用を事実上左右している場合には注意を要します。

従来は下請法の対象外だった取引でも、取適法の対象になることがありますか?

はい、その可能性があります。取適法では、資本金基準に加えて従業員数基準が導入されたため、従来は対象外と考えていた取引が対象となる場合があります。購買部門だけで判断せず、法務・経理・製造部門等を含めて再確認することが推奨されます。

まとめ

金型や治具等の無償保管は、従来の慣行がそのまま適法性を保証する領域ではありません。不要な保管物を整理し、必要な保管には相応の対価を支払うことは、法令違反の回避だけでなく、取引先の資金繰りや生産余力を守り、安定したサプライチェーンの維持にもつながります。

具体的には、次の点検ポイントを参考に確認を進めることが考えられます。

  • 取引先に保管させている金型、治具、専用工具等の台帳を作成する
  • 最終発注日と再使用予定を確認し、回収・廃棄・有償保管の方針を決定する
  • 保管期間、費用、点検範囲、廃棄手続が契約書等に定められているか点検する
  • 過去の無償保管について、保管費用の精算が必要か検討する
  • 取引先からの申入れに対する回答期限と社内の決裁フローを整備する

出典・参照資料

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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