最高裁判決|ヒグマ駆除での猟銃許可取消しは違法
令和8(2026)年4月1日
令和8年(2026年)3月27日、最高裁判所において、ヒグマ駆除に出動した鳥獣被害対策実施隊員に対する猟銃所持許可の取消処分を違法とする判決が言い渡されました。
本件は、市の要請を受けてヒグマの駆除に向かった隊員(以下「Aさん」とします)が、現場で猟銃を発砲した際、弾丸が他の隊員の持っていた銃に命中したという事案です。これに対し、北海道公安委員会は銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)違反等を理由として、Aさんのライフル銃の所持許可を取り消しました。
裁判では、行政機関からの要請に基づく公益的な活動中における発砲行為に対し、所持許可の取消しという最も重い処分を行うことが妥当であるかが問われました。この判決は、今後の鳥獣被害対策の担い手や実務に大きな影響を与えると考えられます。
この記事のポイント
- 処分の違法性を認定:ヒグマ駆除中の発砲行為を理由とした猟銃所持許可の取消処分は、公安委員会の裁量権の逸脱・濫用にあたり違法とされました。
- 公益性と萎縮効果の考慮:行政の要請に基づく公益的な活動であることや、処分が今後の活動の担い手に与える影響(萎縮効果)が考慮されました。
- 危険性の否定ではない:裁判所は発砲行為自体の危険性を否定したわけではなく、諸事情を総合考慮して処分の重さを判断しました。
事件の背景
事案の概要は以下のとおりです。
市の鳥獣被害対策実施隊員(非常勤公務員)であるAさんが、市の出動要請を受けてヒグマの駆除に向かいました。
現場では避難誘導が行われる中、Aさんがヒグマに対してライフル銃を発砲しました。その際、発射され貫通した弾丸が、別の場所に移動していた他の隊員の銃床(銃の一部)に命中しました。なお、この事故による死傷者は出ていません。
その後、北海道公安委員会は、この発砲行為が銃刀法等に違反し周囲へ危険を生じさせたとして、Aさんのライフル銃の所持許可を取り消す処分を行いました。
裁判での争点
本件の主な争点は、公安委員会が行った「猟銃所持許可の取消処分」が、裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したものとして違法となるかどうかという点です。
公安委員会側は、発砲された弾丸が周辺の建物や他の隊員に当たる危険性があり、安全のための遵守事項に違反しているため、許可の取消処分は適法であると主張しました。
一方、処分を受けたAさん側は、市の出動要請に基づくヒグマ駆除という、住民の安全を確保するための極めて公益性の高い活動の一環であったことを理由に、許可の取消しは重すぎる処分であり違法であると主張しました。
最高裁判所の判断
1. 法令の趣旨の総合考慮
最高裁判所は、猟銃所持許可を取り消すかどうかの判断は公安委員会の裁量に委ねられているとした上で、判断にあたっては諸事情を総合的に勘案する必要があると述べました。具体的には、銃刀法の趣旨(銃砲による危害の予防)だけでなく、鳥獣被害防止特措法の趣旨も考慮すべきであるとしました。
特措法は、隊員が公務員として行う被害防止活動を支援し、住民の生命や財産を守ることを目的としています。そのため、危害防止の観点からは取消しが相当に思える場合でも、処分が特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれがある場合は、その点も判断における事情として考慮することができるとされました。
2. 発砲行為の危険性と公益性
裁判所は事実関係として、Aさんが発砲した弾丸が他の隊員の銃を貫通していることなどから、行為自体に危険性があったこと、Aさんが安全確認に関する基本的な判断を誤った可能性を否定しませんでした。
しかし同時に、この発砲が市の出動要請を受け、住民の要望を背景とした行政側の依頼により行われたものであることを重視しました。周辺住民を保護するための重要な意義を持つ活動の一環であり、発砲に至る経緯に不適切な点は見当たらないと評価しました。
3. 処分による萎縮効果と結論
さらに、現場は緊迫した状況であり、短時間での判断が求められたこと、現実に死傷の結果が生じていないことを挙げました。
このような状況下で個人の許可を取り消すことは、当事者に酷であるだけでなく、他の隊員の活動や、民間人が隊員に任命されること自体をちゅうちょさせるなど、職務遂行に萎縮的な影響を与えると指摘しました。これは、特措法の趣旨に反する事態を招くおそれがあります。
これらの事情を総合的に勘案した結果、処分によって得られる利益と不利益の均衡を著しく失しており、社会観念上著しく妥当を欠く処分であるとして、裁量権の逸脱または濫用にあたり違法であると結論付けました。
この判決が実務に与える影響
本判決は、行政法令の違反事実(危険性や過失の可能性)が存在する場合であっても、行政からの出動要請という「公益性」や、処分が将来の担い手に与える「萎縮効果」を考慮し、最も重い不利益処分を違法とした点に大きな意義があります。
ただし、あらゆる有害鳥獣駆除における違反行為が免責されるわけではない点には注意が必要です。本件は、行政からの明確な出動要請があったこと、現場が緊迫した状況であったこと、そして現実に死傷の結果が生じていないことなどの固有の事情が考慮された結果と考えられます。
今後の同種事案においては、行為の公益性の高さ、行政機関の関与の程度、現場の緊迫性、結果の重大性などが、処分の適法性を判断する上で重要な評価要素になると思われます。
まとめ
本件最高裁判決は、市の要請を受けてヒグマ駆除を行った鳥獣被害対策実施隊員に対する猟銃所持許可の取消処分を違法としました。行政処分の適否を判断する際、単なる違反事実の有無だけでなく、活動の公益性や、処分が今後の実務に与える萎縮効果を総合的に考慮すべきであるという重要な枠組みを示しています。
一方で、銃器の取り扱いにおける客観的な危険性や過失の可能性が完全に否定されたわけではなく、安全確保の重要性は変わりません。公益的な活動に伴うリスク負担と行政処分のあり方について、今後の制度設計に向けた一つの指針となる判決といえます。
出典・参照資料
- 最高裁判所第三小法廷 令和8年3月27日判決(事件番号:令和7年(行ヒ)第25号)
- 札幌高等裁判所 令和6年10月18日判決
- 札幌地方裁判所 令和3年12月17日判決
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
この記事は参考になりましたか?