弁護士 櫻町直樹(内幸町国際総合法律事務所)

警備業法の「欠格条項」について最高裁(大法廷)が違憲判決


令和8(2026)年2月22日

令和8(2026)年2月18日、最高裁判所(大法廷)は、警備業法がかつて定めていた「被保佐人は警備員になれない」という規定について、憲法違反であったとする歴史的な判断を下しました。一方で、国に対する損害賠償請求については認めないとする結論を出しています。今回の判決のポイントを整理し、分かりやすく解説します。

この記事の要点

  • 警備業法の旧規定(被保佐人の一律排除)は、職業選択の自由などに反し違憲と判断された。
  • 国会が直ちに法改正しなかったことは「直ちに違法とはいえない」として国家賠償は否定された。
  • 特定の属性による一律排除ではなく、個人の能力に応じた個別審査が重視される社会へと転換しつつある。

判決の結論:違憲判断と国家賠償の否定

今回の最高裁判決における最も重要な結論は以下の通りです。

  • 警備業法の旧規定は「憲法違反」
    被保佐人であることを理由に一律に警備員から排除する規定は、職業選択の自由(憲法22条1項)と法の下の平等(憲法14条1項)に違反すると判断されました。
  • 国家賠償(慰謝料)は認めず
    規定が違憲であっても、当時の国会が直ちに内容を改正しなかったことが「直ちに違法(過失がある)」とはいえないとして、原告の賠償請求は棄却されました。
  • 全員一致の結論と多数の意見
    結論は裁判官全員一致ですが、違憲となった時期や国家賠償の考え方をめぐり、15人の裁判官のうち多くの裁判官が独自の補足意見や反対意見を述べる異例の展開となりました。

裁判の事実関係と主な争点

事件のきっかけ

今回の裁判のきっかけは、軽度の知的障害がある男性(被上告人)が、警備員として働いていた際のエピソードにあります。

男性は交通誘導の警備業務に従事していましたが、平成29(2017)年3月に、自身の財産管理などをサポートしてもらうため「保佐開始の審判」を受けました。当時の警備業法には「被保佐人は警備員になってはならない」という欠格事由があったため、男性はこの規定に該当することとなり、会社を退職せざるを得なくなりました。

その後、令和元(2019)年に法律が改正され(一括整備法)、現在はこの制限は撤廃されています。しかし男性は、「そもそも、このような差別的な規定を放置していた国会(国)に責任がある」として、慰謝料を求める訴訟を起こしました。

裁判での主な争点

  1. 職業選択の自由と平等の侵害
    精神上の障害を理由に、特定の職業から一律に排除することは許されるのか。
  2. 立法の遅れ(立法不作為)の責任
    法律が憲法違反の状態にあったとして、国会がそれを改廃しなかったことに、国家賠償法上の過失(法的な落ち度)が認められるか。

最高裁はなぜ旧警備業法を「違憲」と判断したのか?

最高裁は、警備員の仕事が他人の生命や財産を守る重要なものであるため、一定の能力が必要であるという目的自体は認めました。しかし、以下の理由から「必要かつ合理的な範囲を超えている」と結論付けました。

  • 個別判断ができる仕組みがあった
    平成14(2002)年の法改正で、すでに「心身の障害により業務を適正に行えない者」を個別に審査する仕組み(7号規定)が導入されていました。
  • 一律排除の不合理さ
    個別に判断する仕組みがある以上、わざわざ「被保佐人」という肩書きだけで一律に排除する必要はなく、職業選択の自由を過度に侵害していると判断されました。

国家賠償が認められなかった理由と分かれた意見

なぜ国家賠償は否定されたのか

最高裁は「法律が違憲であること」と「国会議員の行動が違法(賠償対象)であること」を明確に区別して考えました。

  • 明白性の欠如
    平成29(2017)年の退職時点において、この規定が「憲法違反であることが誰の目にも明らか(明白)だった」とはいえないと判断しました。
  • 社会情勢の変化との近接性
    障害者権利条約の批准や国内法の整備が進み、社会の意識が「保護」から「人権保障」へと転換した時期と、男性が退職した時期が近かったため、国会が直ちに改正を怠ったとまでは評価できないとしました。

裁判官の間で分かれた意見

この判決では、結論は同じでも「いつから違憲だったのか」「国はもっと早く対応できたはずだ」とする5人の裁判官が、国への賠償を認めるべきだとする強い反対意見を述べています。

法律用語ミニ辞典(初学者向け)

  • 被保佐人(ひほさにん)
    精神上の障害により、判断能力が「著しく不十分」であるとして、家庭裁判所からサポート役(保佐人)を付けてもらう審判を受けた人のこと。
  • 欠格事由(けっかくじゆう)
    ある資格を得たり、職業に就いたりするために「これに該当してはならない」とされる条件のこと。
  • 一括整備法(いっかつせいびほう)
    令和元(2019)年に成立した、成年被後見人等の権利制限を見直すための法律。これにより多くの職種で一律の制限が撤廃されました。
  • 立法不作為(りっぽうふさくい)
    国会が、必要な法律を作ったり、憲法違反の法律を改正・廃止したりすべきなのに、それをしないこと。
  • 国家賠償法1条1項
    公務員(国会議員を含む)が職務中に故意や過失で他人に損害を与えた場合、国や自治体がその損害を賠償することを定めた法律。

まとめ:今後の実務と社会への影響

本記事では、被保佐人の警備員就業を制限する旧警備業法の規定に対する最高裁の違憲判決について解説しました。最も重要なポイントは、精神上の障害や「被保佐人」といった属性を理由に、特定の職業から一律に排除することは憲法違反であると明確に示されたと言えるでしょう。

国家賠償こそ認められませんでしたが、個人の能力を実質的に審査せず、一律に制限をかける法制度に対して最高裁から極めて厳しい見方が提示されました。この判決は、令和元(2019)年の法改正による制限撤廃の流れを法的に決定づけるものであり、就労への不安から敬遠されがちだった成年後見制度を利用しやすい環境づくりにも大きく寄与する可能性があります。

今後は、警備員に限らず、障害の有無や制度の利用状況にかかわらず、一人ひとりの能力が適切かつ個別に評価され、多様な個人が尊重される社会の実現がさらに求められていくと考えられます。残された個別審査を伴う制限についても、真に必要なものか継続的な検証が必要となるでしょう。

【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、 法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。

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