カスタマーハラスメント対策が義務化へ:事業主に求められる4つの措置とは
令和7(2025)年11月18日
令和7(2025)年11月17日、労働政策審議会において、職場におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を強化するための新たな指針の素案が示されました。これは、事業主に対してカスタマーハラスメント防止措置を義務付けるものです。
この指針は、企業が従業員を悪質なクレームや嫌がらせから守るための具体的な枠組みを定めています。特に重要なのは、事業主に義務付けられる以下の4つの措置です。
事業主に義務付けられる4つの主要措置
- 方針の明確化と周知・啓発: 労働者を守る毅然とした方針を明確にし、社内外に示すこと。
- 相談体制の整備: 労働者が安心して相談できる窓口を設置し、広く相談に応じること。
- 事後の迅速かつ適切な対応: 相談があった場合、速やかに事実確認を行い、被害者への配慮と再発防止策を講じること。
- 抑止のための措置: 悪質な言動に対し、警告やサービス拒否など具体的な対処方針を定め、実行できる体制を整えること。
本記事では、この新しい指針の素案に基づき、カスタマーハラスメントの定義や事業主に求められる具体的な対応について解説します。
背景:労働政策審議会での議論
令和7(2025)年11月17日に開催された第87回労働政策審議会 雇用環境・均等分科会において、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律の施行」が議題とされました。
この中で、主要な検討事項として「職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案」が提示され、カスタマーハラスメント対策の具体的な法的枠組みが示されました。
カスタマーハラスメントの定義と範囲
指針案は、事業主が対策を講じるべき「職場におけるカスタマーハラスメント」の定義と対象範囲を明確化しています。
2.1. 定義の三要素
職場におけるカスタマーハラスメントは、以下の3つの要素を全て満たすものと定義されます。
- 行為者: 顧客、取引先、施設利用者など、事業に関系する者(以下「顧客等」)による言動であること。
- 行為: その言動が、労働者の業務の性質等に照らして「社会通念上許容される範囲を超えた」ものであること。
- 結果: その言動により、労働者の就業環境が害されること。
なお、客観的に見て正当な申し入れや、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の求めなどは、カスタマーハラスメントには該当しないことが明記されています。
2.2. 対象範囲
この措置は、正規・非正規を問わず、また場所や手段も限定せず、幅広く労働者を保護するものです。
- 場所(職場)
- 労働者が業務を遂行する全ての場所。通常の就業場所に限らず、取引先の事務所、顧客の自宅等も含まれます。
- 手段
- 対面での言動のみならず、電話、SNS、電子メール等を用いたものも含まれます。
- 対象労働者
- 正規雇用労働者だけでなく、パートタイム労働者、契約社員などの非正規雇用労働者、派遣労働者も含む、事業主が雇用する全ての労働者です。
- 行為者(顧客等)
- 顧客(潜在顧客も含む)、取引先(将来の取引先候補も含む)、施設利用者(その家族や近隣住民も含む)など、事業に関係する幅広い者が含まれます。
2.3. 「社会通念上許容される範囲を超えた」言動の判断基準と具体例
この判断は、言動の目的、経緯、態様、頻度、継続性、労働者の属性や心身の状況などを総合的に考慮して行われます。指針案では、典型的な例として以下のものが挙げられています。
カスタマーハラスメントの典型例
1. 言動の内容が範囲を超えるもの
- 性的な要求やプライバシーに関わる要求
- 契約内容を著しく超えるサービスの要求
- 対応が不可能な要求
- 商品やサービスと無関係な不当な損害賠償要求
2. 手段や態様が範囲を超えるもの
- 身体的な攻撃: 暴行、物を投げつける、わざとぶつかる
- 精神的な攻撃: 脅迫、中傷、侮辱、土下座の強要、盗撮、性的指向等に関する暴露(アウティング)
- 威圧的な言動: 大声をあげる、反社会的な言動
- 継続的、執拗な言動: 不必要な質問の繰り返し、執拗な責め立て、メールの連続送信
- 拘束的な言動: 長時間の居座りや電話による拘束
事業主が講ずべき義務的措置
指針案は、事業主が雇用管理上「講じなければならない」措置として、以下の4つの柱と、それに付随する措置を定めています。
3.1. 方針の明確化及び周知・啓発
- 方針の明確化: カスタマーハラスメントには毅然と対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化する。
- 周知・啓発: 上記方針を、社内報や研修などを通じて管理監督者を含む全労働者に周知・啓発する。また、この方針を顧客等にも周知することが効果的であるとされる。
- 対処内容の策定と周知: 労働者が現場で対応できるよう、具体的な対処内容をあらかじめ定め、周知する。
【現場での対処内容の例】
- 管理監督者等へ直ちに報告し、指示を仰ぐ
- 労働者を一人で対応させない(必要に応じて管理監督者が交代)
- やり取りを録音・録画する
- 一定時間経過後に退去を求めたり、電話を切ったりする
- 犯罪行為に該当し得る場合は警察へ通報する
- 弁護士等へ相談する
3.2. 相談体制の整備
- 相談窓口の設置: 労働者からの相談(苦情を含む)に応じるための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する。他のハラスメント相談窓口との一体的設置も可能。
- 適切な対応: 相談担当者が内容や状況に応じて適切に対応できる体制を整備する。カスタマーハラスメントに該当するか微妙な場合や、その発生のおそれがある場合でも広く相談に対応することが求められる。
3.3. 事後の迅速かつ適切な対応
相談の申し出があった場合、事業主は以下の措置を講じなければなりません。
- 事実関係の確認: 相談者や周囲の労働者からの聴取、録音等の客観的証拠の確認などを通じ、事実関係を迅速かつ正確に確認する。
- 被害者への配慮措置: カスタマーハラスメントの事実が確認できた場合、被害者と行為者を引き離すための配置転換、担当者の変更、メンタルヘルス不調への相談対応など、速やかに適切な配慮措置を講じる。
- 再発防止措置: カスタマーハラスメントに関する方針を改めて周知・啓発するとともに、発生原因となった商品・サービスや接客の問題点を改善するなど、再発防止策を講じる。事実が確認できなかった場合でも同様の措置を講じる。
3.4. 抑止のための措置
特に悪質(過度な要求を繰り返す等)なカスタマーハラスメントに対しては、その抑止のため、以下の措置を講じなければなりません。
- 対処方針の策定と周知: あらかじめ対処方針を定め、労働者に周知する。
- 体制整備: 方針に定めた対処(例:警察への通報、警告文の発出、サービスの提供拒否、店舗への出入り禁止、法的措置など)を実際に実行できる体制を整備する。
3.5. 併せて講ずべき措置
上記の4つの柱に加え、以下の措置も義務付けられます。
- プライバシーの保護: 相談者の性的指向・ジェンダーアイデンティティ等を含むプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知する。
- 不利益取扱いの禁止: 労働者がカスタマーハラスメントに関して相談したことや、事実関係の確認に協力したこと等を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する。
事業主および労働者の責務
指針案は、法に基づく事業主および労働者の責務(努力義務)についても言及しています。
- 事業主の責務(努力義務)
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- 自社の労働者がカスタマーハラスメント問題への関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者への言動に注意を払うよう、研修等の配慮を行う。
- 国が講ずる広報・啓発活動に協力する。
- 労働者の責務(努力義務)
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- カスタマーハラスメント問題への関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者への言動に注意を払う。
- 事業主が講ずる措置に協力する。
また、自社の労働者が他の事業主の労働者に対してカスタマーハラスメントを行った場合、当該他の事業主から事実確認等の協力を求められた際には、協力するよう努めなければならないとされています。
事業主が講ずることが望ましい取組
義務的措置に加え、カスタマーハラスメントの原因や背景を解消するために事業主が自主的に行うことが望ましいとされる取組も示されています。
- 労働者の対応力向上(接客、苦情対応研修など)
- 顧客等への理解促進(消費者心理、障害特性に関する研修など)
- 運用状況の把握と見直し(労働者や労働組合の参画)
- 業種・業態に応じた取組(業界団体との連携など)
- 加害者防止の取組(自社労働者がカスタマーハラスメントを行わないための方針明確化)
- 雇用関係にない者への配慮(個人事業主等への相談対応など)
【免責事項】
本記事の内容は、執筆時点の法令・情報等に基づいた一般的な情報提供を目的とするものであり、
法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士にご相談ください。
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