改正DV防止法のポイント
令和7(2025)年6月28日
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律」(令和5年法律第30号。以下「改正DV防止法」)が令和5(2023)年5月12日に成立し、同年5月19日に公布されました。この改正DV防止法は、一部をのぞき令和6(2024)年4月から施行されています。
改正DV法の主なポイントと重要な内容は以下の通りです。
改正の理由と全体像
近年、DVに関する相談件数は増加傾向にあり、特に精神的なDVによる心身への重大な被害の報告が増えています。一方で、裁判所による保護命令の認容件数は減少傾向にありました。このような状況を踏まえ、(令和5年改正前の)制度では身体に対する暴力などを受けた被害者のみを対象としていた保護命令を強化し、被害者の生活再建支援を進める必要性が指摘されていました。
今回の改正では、主に以下の点が拡充・強化されました。
1. 保護命令の対象者の拡大と要件の強化
「身体に対する暴力」に加え、「自由、名誉、財産に対する脅迫」も保護命令の申立て対象に追加されました。
「脅迫」の具体例:
- 「言うことを聞くまで外に出さない」などと告げる場合(自由に対する脅迫)
- 「性的な画像をネットで拡散する」などと告げる場合(名誉に対する脅迫)
- 「キャッシュカードを取り上げる」などと告げる場合(財産に対する脅迫)
- 性的自由に対する害を加える旨の告知も自由に対する脅迫となり得ます。
保護命令の発令要件が「身体に重大な危害を受けるおそれ」から「心身に重大な危害を受けるおそれ」へと拡大されました。
「心身」には「身体及び精神」が含まれ、「重大な危害」とは少なくとも通院加療を要する程度の危害を指します。精神への重大な危害(PTSD等)の立証には、診断書の添付が必要とされています。
2. 保護命令の種類の拡大
「被害者の子への電話等禁止命令」が新たに創設されました。これは、子が配偶者との面会を余儀なくされることで被害者への接近禁止命令の効果が薄れるのを防ぎ、保護の実効性を確保する措置です。
「被害者への電話等禁止命令」の対象行為が拡充され、SNSでの執拗なメッセージ送信や、緊急時以外の深夜早朝(午後10時~午前6時)のSNS等(メッセージ機能)の送信、GPSを用いた無断での位置情報取得なども禁止対象に含まれました。
3. 命令の有効期間の伸長
接近禁止命令の有効期間が従来の6か月から1年間に伸長されました。これにより、被害者がより長期的に安全を確保できるようになります
退去等命令の期間について、被害者が単独で建物を所有または賃借している場合、申立てにより6か月とする特例が新設されました(原則は2か月)。
4. 保護命令違反に対する罰則の強化
保護命令に違反した場合の罰則が、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役(※)または200万円以下の罰金」へと加重されました。 国および地方公共団体の責務規定において、被害者の保護に「被害者の自立の支援」が含まれることが明確化され、国が定める基本方針および都道府県基本計画の記載事項として関係機関の連携・協力が義務化されました。 配偶者暴力に関する協議会が法定化され、守秘義務(協議会の構成員には守秘義務が課せられます)のもとで関係機関が連携し、被害者支援の実効性を高めます。
※刑法改正に伴い、2025年6月1日から懲役と禁錮が一本化され「拘禁刑」となっています。
5. 被害者の自立支援と多機関連携の強化
6. 保護命令手続のデジタル化
これらの改正は、被害者が心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合に、より幅広い形態の暴力に対して保護を受けられるようにし、また、被害者の自立を支援するための体制を強化することを目的としています。
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