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同性婚をめぐるこの10年の歩みと現在地

2025年6月22日

平等を象徴するイメージ

2015年に制定された東京都渋谷区のパートナーシップ条例は、日本の同性婚をめぐる議論における画期的な出来事でした。あれから約10年が経過し、状況は大きく進展しています。

1. パートナーシップ制度の全国的な広がりと現状

2015年に渋谷区で始まったパートナーシップ制度は、その後、全国の自治体へと劇的に広がりました。

  • 現状: 2025年6月の時点で、導入自治体は500以上にのぼり、日本の人口の約92%をカバーするに至っています。
  • 要件の多様化: 渋谷区の「任意後見契約」や「合意契約」の公正証書を必須とするモデルは初期のもので、現在ではより簡便な手続きで届け出ができる自治体がほとんどです。
  • 法的効力の限界: この制度はあくまで各自治体の条例に基づくものであり、法律上の婚姻ではありません。そのため、相続権、税金の配偶者控除、共同親権など、国が定める法的な権利や義務は依然として認められていません。この点が、現在も最も大きな課題とされています。

2. 憲法判断の歴史的な進展

2015年当時は、憲法24条が同性婚を禁止しているかどうかが学説レベルで議論されていました。その後の司法の場では、「同性婚を禁止するとは言えない」という解釈に基づき、さらに踏み込んだ判断が下されています。

2019年以降、全国各地で同性カップルが国を提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟において、司法の判断は大きく進みました。

  • 相次ぐ「違憲」判決: 2021年の札幌地裁判決を皮切りに、複数の地方裁判所・高等裁判所で「違憲」または「違憲状態」との判決が下されています。
  • 法の下の平等(憲法14条)違反: 同性カップルが婚姻によって得られる法的利益を享受できないことは、合理的な理由なく差別するものであり「法の下の平等に違反する」という判断が主流になっています。
  • 個人の尊厳(憲法24条2項)違反: 「婚姻は個人の尊厳に立脚して定められなければならない」とする24条2項に違反するという指摘もなされています。

これらの司法判断は、立法府である国会に対して、速やかな法整備を求める強いメッセージとなっています。

3. 幸福追求権と国の責務

憲法13条の定める「幸福追求権」についても、裁判の中で重要な論点となりました。同性カップルが家族として共同生活を送り、人生を共にしたいと願うことは、まさしく憲法が保障する「個人の尊重」と「幸福追求権」そのものであると多くの判決で指摘されています。同性婚を認めない現在の法制度は、こうした個人の尊厳や人格的利益を侵害している、というのが近年の司法の傾向です。

4. アメリカの動向とその後の世界、そして日本

  • オーバーグフェル対ホッジス裁判( Obergefell v. Hodges, No. 14-556): この判決で、アメリカ連邦最高裁判所は、同性婚を憲法で保障された権利であると認め、全米で同性婚が合法化されました。
  • 世界の潮流: 2015年以降も世界の潮流は変わらず、現在では台湾やタイといったアジア諸国を含む30以上の国と地域で同性婚が法制化されています。
  • 日本の現在地: 日本では、司法の場で「違憲」判断が積み重ねられ、世論調査でも7割以上が同性婚に賛成するなど、法制化を求める声が社会の多数派を占めるようになりました。しかし、国会での議論は依然として停滞しており、法改正には至っていません。

まとめ

2015年には一自治体の先進的な取り組みに過ぎなかったパートナーシップ制度が全国に広がり、憲法をめぐる議論は司法の場で「違憲」という具体的な判断が下される段階へと大きく進展しました。世界に目を向ければ、同性婚は「人権」として広く承認されるようになっています。

この10年間で、同性婚はもはや「憲法違反かどうか」を議論する段階ではなく、「いつ、どのような形で法制化を実現するか」という、立法府の具体的な行動が問われる段階に来ていると言えます。